「僕、恋愛は来るもの拒まず去るもの追わず派なんです」
都内のホテルの喫茶室で、39歳のエンジニアの彼は、お見合い相手に向かって胸を張った。
本人としては、心の広さをアピールしたつもりだったらしい。
次の日に届いた断りの言葉は、たったひと言。
誰でもいいんだな、と思いました。
来るもの拒まず去るもの追わず。
恋愛では、わりと褒め言葉として使われることわざです。
執着しない。重くない。余裕がある。だからモテると書かれている。
半分は当たっていて、半分は大外れ。
相談所勤めの7年間で、このことわざを地で行く人を何十人も見てきた。
来るもの拒まず去るもの追わずは、恋愛の決定権を、全部相手に預ける生き方です。
楽で、モテる。そのかわり、選ばれない。
来るもの拒まず去るもの追わずの恋愛は、なぜ楽でモテるのか
先にいいところを認めておく。
悔しいけど、このタイプは本当にモテる!
断らない人は、誘う側にとってハードルが低い
誘う側にとって一番怖いのは、断られること。
来るもの拒まずの人は、そのハードルを最初から下げてくれている。
ご飯行こう、と言えば、いいよ、と返ってくる。
誘いやすい人のところに、人は集まる。
相談所でも、申し込みを基本的に全部受ける人は、お見合いの件数が段違いだった。
ひと月に12件、という女性もいたほど。
会う人数が多ければ、それだけ場数も踏める。
場数を踏めば、会話も上手くなる。
このあたりまでは、正直言ってうらやましい(笑)
追わない人は、恋愛がこじれにくい
去るもの追わずの人は、相手を責めない。
連絡が途切れても文句を言わないし、既読が遅くても気にしない。
相手からすれば、一緒にいて息がしやすい。
失恋からの立ち直りも早い。
ただ、この息のしやすさには、からくりがある。
相手が去っても痛くないのは、最初から深く入っていないから。
重くならないのと、軽いのは、紙一重なんです。
女性の来るもの拒まずは、都合のいい人にもなりやすい
女性がこのスタンスでいると、気をつけたいことがひとつある。
断らない人は、都合よく扱いたい人にとっても入りやすい入り口だということ。
夜遅くに急に呼び出す人。
交際の話は出さないのに、会うことだけは続けたい人。
既婚を隠して近づいてくる人。
来るもの拒まずの網には、こういう人も一緒に引っかかってくる。
相談所の外で傷ついて入会してきた女性には、このパターンが本当に多かった。
誰でもいいわけじゃない、と線を引くことは、自分を守ることでもあります。
来るもの拒まず去るもの追わずの正体は、決めることからの逃げ
始めるのは来た人、終わらせるのは去った人
この言葉を、恋愛の時系列に並べ直してみる。
始まりは、来た人が決める。
終わりは、去った人が決める。
じゃあ、自分は何を決めているのか。
実は、何も決めていない。
恋愛の始まりにも終わりにも、あなたの署名がないんです。
回転寿司で言えば、レーンに流れてくる皿を、来た順に取っているだけ。
自分でタッチパネルを押して、これが食べたい、と頼んだ経験は一度もなし。
おなかは、それなりに満たされる。
でも結局、本当に食べたかったネタには、一生出会えない。
去るもの追わずの裏にある、追って断られるのが怖い気持ち
去るもの追わず、は大人の余裕に見える。
でも面談で深く話を聞くと、余裕とは別のものが出てくることが多かった。
追いかけて、それでも断られたら、立ち直れない。
だったら最初から追わないほうが、傷は浅くて済む。
37歳の男性は、真顔でこう言っていた。
追って断られるくらいなら、最初から本気にならないほうがましです。
心理学には、親しくなりすぎるのを無意識に避ける、回避型と呼ばれる傾向がある。
去るもの追わずを口ぐせにしている人には、この傾向が見え隠れする。
余裕で追わないのか、怖くて追えないのか。
外から見たら同じでも、中身はまるで違う。
拒まないのに選ばない人は、心の奥で誰かを待っている
もうひとつ、現場で何度も見た不思議な現象がある。
誰の誘いも断らず、誰とでも会う。
なのに、誰とも先へ進まない。
話を聞いていくと、たいてい心の奥に、まだ会っていない誰かがいる。
会った瞬間にこの人だと確信できる、運命の相手。
その確信が来ないから、目の前の人を選べない。
拒まないのは、心が広いからじゃない。
本命の席を空けたまま、全員を仮置きしているだけなんです。
婚活の現場で見た、来るもの拒まず去るもの追わずの末路
仮交際5人、3か月後にゼロ人になった女性
担当した33歳の女性は、申し込まれたお見合いを、一度も断らなかった。
会った人とは、ほぼ全員と仮交際に進む。
仮交際というのは、複数の相手と、同じ時期に会えるお試し期間のこと。
一時期、その相手が5人。
週末は毎回デートで埋まり、本人もまんざらでもない様子だった。
ところが、相手を一人に絞る真剣交際には、誰とも進まない。
選ばないまま3か月がたつと、男性たちは一人、また一人と離れていった。
彼女はもちろん、誰も追わない。
気づけば、ゼロ人。
面談室で、彼女は力なく笑った。
誰も悪くないのに、誰もいなくなっちゃった。
(それは、あなたが誰も選ばなかったから…)
喉まで出かかったその言葉を、その日は言えなかった。
そこから彼女がやったのは、一人を選ぶ練習。
次に会う3人のうち、一番また会いたい人を、私に一人だけ名指しする。
最初の2巡は、選べませんでした、の連続。
決められない理由を聞くと、名前を挙げなかった人に悪いから、と言う。
来るもの拒まずの根っこには、こういう優しさが隠れていることも多い。
3巡目で名前の挙がった男性と、彼女は翌年の春に入籍した。
お見合いの自己紹介で、このことわざを使った男性のその後
冒頭のエンジニアにも、続きがある。
お断りを伝えた電話の向こうで、彼がガクッとうなだれるのがわかった。
心が広いと思われたかったんですけど。
そこで、自己紹介の一文を書き換えてもらった。
好きになったら、わりとしつこいです。
冗談半分で書いたのに、意外とこれが一番ウケた。
しつこいって、どれくらいですか、と相手が笑いながら聞いてくる。
会話が転がる。
その一文に変えてから3人目で、彼は仮交際に進んだ。
女性が求めているのは、誰でもいい人じゃない。
自分を選んでくれそうな人です。
来るもの拒まず去るもの追わずな彼を好きになったら
待っていても、彼からは来ない
このタイプの男性を好きになると、たいてい待ちの勝負になる。
でも彼は、来るもの拒まずではあっても、自分から行く人ではない。
誘えば来る。誘わなければ来ない。
付き合うまでは、こっちが動かない限り何も始まらないと思ったほうがいい。
問題は、付き合ってから。
連絡も、デートの提案も、記念日も、全部こちら発信。
LINEを送らなければ、1週間でも平気で静かなまま。
それでも、会えば優しいし、楽しい。
だから余計に、離れどきがわからなくなる。
それが3か月、半年と続いたとき、虚しくならない自信があるかどうか。
虚しくなる人は、早めに見切ったほうが身のためです。
押して引く、の引くが通用しない相手
恋愛テクニックの定番に、押して引く、がある。
少し距離を置いて、追いかけさせる作戦。
これ、去るもの追わずの人には一切効かない。
引いたら、そのまま引いたことになる。
寂しくさせて気づかせるつもりが、ただの自然消滅で終わった女性を、何人も知っている。
LINEをわざと2週間返さなかった女性もいた。
その2週間、彼からの連絡は一度も来なかった。
3週間目も、音沙汰なし。
このタイプと付き合うなら、駆け引きは捨てる。
会いたいなら会いたい、寂しいなら寂しい、と言葉で伝える。
察してもらうのを待つより、そのほうが話が早い。
2回目のデートでこのセリフを言われたら
婚活中の女性から、よく聞く相談がある。
デートの最中に、俺って来るもの拒まず去るもの追わずなんだよね、と言われた。
これ、どういう意味ですか、と。
言った本人に、深い意味はないことが多い。
ただ、聞いた側の胸に残るのは、私じゃなくてもいいんだ、という感覚。
その感覚は、たいてい当たっている。
少なくとも今の時点では、あなたは彼の特別枠の外にいる。
がっかりする前に、ひとつだけ試してみて。
私は追われたい派なんだけど、と笑って返す。
それで彼の動きが変わらないなら、去るのはあなたのほう。
そして彼は、去るあなたを追わない。
ことわざ通りに!
自分が来るもの拒まず去るもの追わずかも、と思ったら
当てはまったら要注意のサイン
誘われると、気が乗らなくても断れない。
デートの店も日程も、いつも相手任せ。
別れたあとに、泣いた記憶がない。
元恋人とは、ほとんどが自然消滅。
自分から告白したことが、一度もない。
これがいくつも当てはまるなら、あなたも立派なこのタイプ。
泣いたことがないのが自慢だったのに、と苦く笑った会員さんもいた。
悪いことじゃない。
ただ、恋愛の主導権を、ずいぶん長いこと他人に預けっぱなしにしている可能性はある。
断る、選ぶ、追う、を一回ずつ
変わるのに、性格ごと入れ替えなくていい。
練習は三つだけ。
気が乗らない誘いを、ひとつ断る。
次に会う人の中から、自分で一人選んで、自分から誘う。
既読のまま止まった会話に、自分からもう一通だけ送る。
どれも、一回ずつでいい。
一回やると、自分で決めた恋愛の手ざわりがわかる。
一度その手ざわりを知ると、レーンの皿を待つだけの毎日には戻れない。
来るもの選んで、去るもの一度だけ追う
去るもの追わずは、さよならを言われたあとだけでいい
去るもの追わず、が本当に正しいのは、相手が言葉で、さよならを言ったあと。
連絡先を消された、別れを切り出された、お断りが届いた。
このときに追うのは、相手の自由を踏みにじることになる。
反対に、言葉にされていない段階の、なんとなく離れていく感じ。
ここで黙っているのは、余裕じゃなくて放棄です。
連絡が減った、会う間隔が空いた。
そう感じたら、一度だけ言葉にして聞く。
最近ちょっと寂しいんだけど、何かあった?
返ってきた答えが冷たかったら、そのとき初めて、追わなければいい。
追うのは一度。二度目からは、相手の自由の領分です。
来るもの選ぶ、の基準はひとつでいい
来るもの選ぶ、と言うと、条件を厳しくしろという話に聞こえそうだけど。
そうじゃない。
基準は、また会いたいかどうか、それだけでいい。
年収も身長も、選ぶ理由としては案外もろい。
会った帰り道に、次はどこに行こうかな、と自然に考えていたら、それが選んだという合図。
何も浮かばなかったら、次の誘いは丁寧に断る。
断るのは冷たさじゃない。
ご縁のなかった人の時間を、次の誰かに返してあげることです。
サンダルのまま、バス停まで追いかけた夜
私自身、長いこと追わない側の人間だった。
3つ年上の意地もあって、追いかける女はみっともない、と本気で思っていた。
付き合って1年目の冬。
くだらない言い合いの末に、夫が突然、もういいよ、と私の部屋を出ていった。
いつもの私なら、そこで終わり。
30秒くらい、玄関で固まっていたと思う。
次の瞬間、ハッとして、サンダルのまま外に飛び出していた。
まさか自分が追う側になるとは、思ってもみなかった。
パタパタと音を立てて、真冬の夜道を走る、いい年をした女。
バス停に、彼はまだ立っていた。
バスは、あと4分で来る時刻。
息を切らして出てきた言葉は、ごめん、じゃなかった。
寒いから、帰ろ。
彼は笑って、バスを1本見送ってくれた。
あの時、追いかけずにいたら、今の家族はいない。
今では4歳の娘が、夫が出かけるたびに玄関まで追いかけていく。
血は争えない。
来るもの選んで、去るもの一度だけ追う。
ことわざとしては語呂が悪すぎるけど、恋愛にはこっちが断然効く。
