その名前が浮かぶ夜は、だいたい時期が決まってる
何年も思い出さなかった人が、急に頭に居座る。
順番はいつも同じです。
先に、今の生活が少し行き詰まる。
そのあとで、あの顔が出てくる。
仕事で評価されなかった週。恋人とのやり取りが薄くなった月。友人の結婚報告を受け取った翌日。
そういう時期に限って、十年前の人の名前を検索したくなるでしょ。深夜二時に、SNSで苗字を打ち込んでみたり。
知りたいのは心理じゃなく、この気持ちが本物かどうか
七年間、婚活の現場で似た相談を数えきれないほど聞きました。みんな、同じ聞き方をします。
今さらこんな気持ちになるのは、運命なんでしょうか、と。
運命かどうかは分かりません。私は占い師じゃないので。
分かるのは、このタイミングの偏りです。偶然ではまず説明がつかないくらい、きれいに同じ時期に起きてる。
ただね、戻ってきたのは、あの人への気持ちじゃない場合がある。
懐かしいと感じているのは、相手じゃなく自分のほう
思い出しているのは、その人といたころの自分
頭に浮かぶ場面を、細かく再生してみてください。
相手の顔だけが出てきますか。出てこないでしょ。
教室の匂い。駅前の店。あのころ聴いていた曲。休み時間の光。
一緒に浮かんでくるものが多すぎるんですよ。
それ、恋愛感情じゃなくて時代の記憶です。
当時のあなたは、まだ何にでもなれた。年齢の制限も、生活の重さもなかった。あの時期の自分に戻りたい気持ちが、相手の名前を借りて出てきてる。
恋の再燃じゃなく、若さへの郷愁。身も蓋もないけど、かなりの割合でこれでした。
判定は簡単で、今のその人を想像できるかどうか
試してみて。
今のその人が、生活に疲れて、腹が出ていて、休日にジャージでスーパーにいる姿。
それを思い浮かべた瞬間、気持ちがしゅんとしぼむなら、恋しているのは記憶のほうです。
逆に、その姿でも会いたいと思えたなら、話が変わる。それは人に向いてる。
この判定、現場でも使っていました。ぱっと答えが出るので便利なんですよ。
炎上覚悟で書きます。この気持ちは、危険信号として使える
再燃を、心の弱った合図として扱ってみてください。
現在に不満がある人ほど、過去がきれいに見える
記憶には、編集機能がついてます。
嫌だった部分は薄れて、よかった場面だけが残る。しかも、時間が経つほど画質が上がる。あのころは楽しかった、という形に整っていく。
だから、現在が苦しいほど、過去の輝きが増す。
比べる相手が、加工済みの映像なんですよ。今の恋人が勝てるわけがない。
相談所でも、真剣交際に入った直後の会員から、昔の人が忘れられないという相談が来ることがありました。しかも順調な時期に限って。
理由は分かりやすい。決断が近づくと、人は逃げ道を探すので。
結婚前に、元カレの名前が出てきた女性会員
三十四歳の女性です。成婚退会の日程まで決まっていた。
面談に来て、こう言いました。
今になって、学生時代の人のことばかり考えてしまう、と。
私は、その人と何があったんですか、と聞きました。
返ってきたのは、告白もしていない、という答えでした。
一度も付き合っていない。話した回数も数えるほど。
(結婚の直前に出てくる相手が、それなんだ…)
そのときの自分の顔、たぶんぽかんとしてた。
可能性が残ったまま終わった相手は、永遠に減点されないんですよ。何も起きていないから、悪い記憶がひとつもない。理想のまま保存されてる。
彼女は結婚しました。今も続いてます。あの時期の名前は、決断の重さから逃げるために出てきただけでした。
ここから逆を書きます。再会した恋は、実はよく続く
否定ばかりで終わらせると嘘になるので。
現場で見てきた事実として、昔の相手とやり直した人の継続率は、けっこう高かった。
省略できる工程が、異常に多い
新しく出会った相手とは、半年かけて確かめることがあります。
家族の話、金銭感覚、仕事への姿勢、友人関係。この人は嘘をつくか。怒るとどうなるか。
昔の知り合いには、その情報がすでにある。しかも、本人が飾っていない時期のものが。
学生時代の彼を知っている人は、その人が緊張したときどうなるかまで知ってるでしょ。プロフィールに書かれない部分を、最初から持ってる。
情報の質が違うんですよ。現場で言えば、身上書五十枚分くらいの価値がある。
ただし、その省略がそのまま事故になる
危ないのも、まったく同じ部分です。
知っている気になって、今の相手を確認しないまま進む。
十年あれば、人は変わります。借金を抱えているかもしれない。宗教が変わっているかもしれない。離婚歴も、子どもの有無も、こちらは知らない。
再会からの交際が壊れるときは、必ずここでした。当時の情報で判断して、現在の情報を取っていない。
なつかしさの勢いは、確認作業をすっ飛ばさせます。三ヶ月で同棲まで行った人を、私は何人か知ってる。
会うなら、思い出話をしない
実務の話に移ります。連絡を取るかどうか迷っている人へ。
夜、酒、二人きり。この三つを外す
再会で判断を誤る条件が、この三つに全部そろってます。
暗いと補正がかかる。酔うと記憶が美化される。二人きりだと空気ができあがる。
やるなら昼です。しかも、なんでもない場所で。
カフェで一時間。それで何も感じなければ、それが答えでいい。
当時の話を封じると、正体が出る
これが一番効く方法です。
会ったときに、昔の話を自分から出さない。
思い出話は、会話を勝手に盛り上げてくれます。楽だから、つい頼る。そして帰り道に、やっぱりこの人だ、と勘違いする。盛り上がったのは過去であって、目の前の人じゃないのに。
今の仕事の話、今の休日の過ごし方、最近腹が立ったこと。現在の話だけで一時間もたせてみて。
続かなかったら、そこで終わりです。もたないまま相手も気まずそうにしていたなら、向こうも同じ結論に達してる。
相手がどう受け取るかも、計算しておいて
自分の気持ちの話ばかりになりがちなので、外側も。
何年も連絡がなかった人からの通知は、重い
送る側は勇気を出したつもりでいる。
受け取る側は、まず警戒します。とくに何の用もなく届いた連絡は。
既婚者なら、なおさらです。返信の一通が家庭の火種になる可能性がある。向こうは分かってるので、慎重になるか、そもそも返さない。
返事が来なくても、嫌われたわけじゃありません。立場の問題です。
既婚者への再燃だけは、はっきり止めます
ここだけ、中立に書く気がありません。
相手に家庭がある場合、連絡しないでください。
現場で、そこから始まった話の後始末を何件も見ました。全員が不幸になってた。例外を見たことがない。
懐かしさは、相手の生活を壊す理由になりません。気持ちは持っていていい。行動に移す必要は、まったくない。
十七年ぶりに会った人は、まったく別人でした
最後に自分の話を書いて終わります。
二十代のころに好きだった人がいました。告白はしていない。何度か二人で会って、そのまま自然に終わった相手です。
その人のことを、私は何年も引きずりました。結婚してからも、たまに思い出した。
数年前、地元の集まりで再会したんです。
十七年ぶりでした。
座って三十分、話してみて、驚いたことがあります。
何も感じなかった。
本当に、何も。
彼は普通に感じのいい人でした。悪いところなんて一つもない。太ってもいなかったし、話も面白かった。
それでも、ぴくりとも動かなかったんですよ。
帰り道、電車の中でぼんやり考えて、やっと分かりました。
私が好きだったのは、あの人にどう思われるか気にしていた二十代の自分でした。何者でもなくて、不安で、毎日が全部仮の話だったあのころの。
その時期は、もうどこにもない。だから、動かなかった。
少し寂しかった。ずしんと来るくらいには。
同時に、あの人を十七年も保管していた自分が、ちょっと可笑しくもあった(笑)
再会して終わる恋のほうが、実は多いと思ってます。
それは失敗じゃありません。保管していた荷物を、やっと下ろせたということなので。
あの人の名前が浮かぶ夜が続くなら、確かめる方法は一つだけ。昼間に会って、昔の話をしないこと。
それで何も起きなければ、恋が終わったんじゃなく、答え合わせが終わったんです。
