その一言に、体温が上がる
なんか、初めて会った気がしないですね。
言われた瞬間、少しだけ空気が変わる。
え、今の何。私も思ってた…かも
帰り道、その台詞だけを何度も再生する。運命って、こういうことなんだろうかと考えてしまう。
あれ、運命じゃありません。
七年間、結婚相談所でお見合いの直後報告を聞き続けてきた身として言うと、あの台詞が出る条件はかなりはっきりしてる。
ただし、口説き文句だと切り捨てるのも間違いです。
本人は本気で言ってる。本気で言っているからこそ、あとで問題が起きる。
その感覚が発生する仕組み
初めて会った気がしない、という感覚には、いくつか説明がつきます。
ひとつは、会話のテンポが合っていること。
話す速度、間の取り方、笑うタイミング。この三つが揃うと、人は初対面の緊張を感じません。
緊張を感じないことを、脳が既知の相手だと解釈する。
もうひとつは、相手の顔や声が、過去に親しかった誰かに似ている場合。
本人は誰に似ているか自覚できません。判別する部分と、親しさを感じる部分は別だから。
つまりあの台詞は、相手の記憶の中にある誰かのことを言ってる可能性がある。
婚活の現場で、この台詞は頻出だった
お見合い直後の報告で、毎月聞いていた
どのくらい多かったか書いておきます。
お見合い後の報告で、この台詞は月に何度も出てきました。特に男性会員から。
最初は私も、いい出会いだったんだなと素直に受け取っていた。
ところが追跡していくと、妙なことに気づきます。
この台詞が出たお見合いの交際継続率が、特別高くなかったんですよ。
むしろ、三回目までに終わる率が高かった。
数字を見たときは、正直、意外でした。
なぜ続かないのか、聞き取って分かったこと
理由を探るために、該当する男性会員に聞き取りをしました。
出てきた答えが、想像と違った。
最初がすごく良かったので、そのあとが物足りなくて。
これです。
初対面で親密さのピークが来てしまうと、そこから先が下り坂に見える。
普通の交際は、回数を重ねるごとに親密さが増していく。その上昇の感覚が、関係を進める燃料になってる。
最初から親密だと、その燃料が発生しないんですよ。
初めて会った気がしないという感覚は、進展の余地を先に食い潰してる。
言う側の男性心理を、三つに分けると
一つ、本当に安心している
まっとうなやつから。
緊張しやすい男性ほど、この台詞を言います。
普段のお見合いで固まってしまう人が、その日だけ楽に話せた。その落差に驚いて、思わず口に出る。
このタイプは、言い方に特徴があります。
なんでだろう、今日すごく話しやすいです。
理由を自分で探してる。運命という言葉を使わない。
好意の芽としては、これがいちばん健全でした。
二つ、距離を詰めるために使っている
次。これは自覚的に使ってるパターン。
初対面の壁を、言葉で強制的に取り払う手法として使う人がいます。
既に親しいという前提を先に作ってしまえば、敬語が崩せる、踏み込んだ質問ができる、次の誘いも出しやすい。
悪質かというと、微妙なところ。営業でも使われる技術です。
判別方法は、その後の展開速度。
この台詞のあとに一気に距離を詰めてくるなら、意図的に使ってる可能性が高い。
三つ、誰かに重ねている
これがいちばん厄介。
過去の交際相手、あるいは家族の誰かに、あなたが似ている場合。
本人は気づいていません。ただ、既視感だけがある。
この場合、交際が進むにつれて、あなた自身の姿が見えてきます。
そして、思っていた人と違うと感じ始める。
最初の親密さが強かった分、落差も大きい。
相談所で、この理由で終わった交際を何度か見ました。男性側が最後まで理由を説明できないまま、なんとなく合わない気がすると言って終わる。
実際にあった、両極端な二つの結末
この台詞から始まって、成婚した例
良かったほうから書きます。
四十代の男性会員が、お見合いでこの台詞を言いました。相手の女性も同じことを感じていたらしい。
私は正直、警戒しました。盛り上がりすぎだと。
ところが、この二人は続いた。
理由が面白かったんです。二人とも、その感覚を分析していた。
話す速度が同じなんですよ、と彼が言っていた。彼女も同じことを言っていた。
運命だと解釈しなかったんです。ただ、相性がいいという事実として扱った。
だから期待値が上がりすぎなかった。半年後に成婚しています。
同じ台詞から始まって、二回目で終わった例
三十代の男性会員が、同じ台詞をお見合いで言った。女性側もかなり乗り気で、その日は三時間近く話し込んだそうです。
二回目のデートで、彼から交際辞退の申し出が来ました。
理由を聞いて、私は頭を抱えた。
二回目が普通だったので、勘違いだったんだと思います。
普通ですよ、二回目なんて。誰でも。
彼は初回の特別さを基準にしてしまった。基準が高すぎると、通常運転が失敗に見える。あの電話のあと、しばらく机に突っ伏してました。もったいなさすぎて。
言われた側が、どう受け取るべきか
嬉しいけど、乗りすぎない
現実的な話をします。
あの台詞を言われたら、素直に嬉しがっていい。実際、その場の空気が良かった証拠だから。
ただ、そこに意味を足しすぎないこと。
運命だ、この人しかいない、と考え始めると、二回目以降の平凡さに耐えられなくなります。
これは女性側にも同じことが起きる。
初回が特別だった相手との二回目は、必ず落ちます。落ちるのが正常。
返し方で、相手のタイプが分かる
使える方法をひとつ。
言われたときに、こう返してみてください。
なんでですかね。
理由を一緒に考えようとする人は、健全なタイプです。話す速度が近いとか、笑うところが同じとか、具体的な答えを探そうとする。
逆に、運命じゃないですかと即答する人は、雰囲気で押している可能性がある。
分析できるかどうかで、かなり判別できます。
私自身が、言われたときの話
相談所の面談で、会員さんに言われた
恥ずかしい話アドバイザー時代、入会面談で男性会員にこの台詞を言われたことがあります。
初めて会った気がしません、と。
一瞬、悪い気はしなかった。人間だし。
ただ、そのあと彼が続けた言葉で、全部が分かりました。
姉に似てるんですよ、話し方が。
なるほど、と(笑)。
運命でも何でもなく、単に姉でした。
でも、これはこれで正しい使い方なんですよ。彼は自分の既視感の出所を分かっていた。だからこそ、勘違いしなかった。
夫との初対面は、真逆だった
ついでに書いておくと、夫と初めて会ったとき、私はまったくそんな感覚を持ちませんでした。
むしろ話しづらかった。間が持たなくて、天気の話をした記憶がある。
それが今こうなってる。
だから初対面の手応えは、その後の予測にほとんど使えないと思ってます。
親しさは、後から作るほうが強い
初めて会った気がしない関係は、スタート地点が高いところにあります。
逆に、最初が微妙だった関係は、低いところから始まる。
どちらが長続きしたかというと、私の実感では後者でした。
理由は簡単で、後者には積み上げた実績があるから。
何回も会って、少しずつ距離を縮めて、その過程を二人とも覚えてる。
最初から親密だった二人は、その過程を持っていません。だから何かあったときに、戻る場所がない。
今日言われたその台詞、嬉しかったと思う。
ただ、その感覚が本物かどうかは、五回目に会ったときの平凡な会話で決まります。
つまらない話で二時間過ごせたなら、そっちのほうが確かです。
