振られた時の返事は、ありがとうと、これからも友達で。
ネットの正解は、だいたいこの二つに落ち着いている。
その二つを、相談所で見てきた景色と並べると、ずいぶん印象が変わる。
結婚相談所には、そもそも振られた側からの返事というものが存在しない。
お断りは担当者を通して届く。
私がいた相談所では、振られた本人が相手に直接ひと言返すのは、ルール違反でした。
そのかわり、第一声を受け止めるのは、電話をかけた私。
7年間で、振られた人の第一声を何百回と聞いてきた。
電話口でシーンと黙り込む人もいれば、わかりました、と即答する人もいる。
どこがダメだったんですか、と食い下がってくる人も。
その第一声と、その後の婚活の伸び方には、面白いくらい関係があった。
この返事は、相手を動かすための一手じゃない。
自分の失恋のドアを、静かに閉めるための最初の一行です。
振られた時の返事で、友達でいようねを勧めない理由
友達でいようねは、相手への最後のお願いになる
友達でいようね。
感じのいい返事に見えるし、たくさんの記事が勧めている。
でも、振った側の気持ちになってみてほしい。
自分に好意を持っている人と、これからも友達を続ける。
それは振った側にとって、気をつかい続ける約束を背負わされるのと同じ。
断ったばかりの相手から、もうひとつお願いをされている状態なんです。
お断りした側の女性から、こんな相談を受けた。
友達でいてほしいと言われたけど、LINEにどこまで返していいのか迷う。
返さなきゃ冷たいし、返せば期待させる。
優しい人ほど、この板挟みで疲れていく。
その二人は半年ほど気まずいLINEを続けて、どちらからともなく途切れた。
まさか、自分のひと言が相手をそこまで縛るとは、振られた側は思っていない。
言うなら、これからも友達で、じゃなく、明日からも普通にあいさつするね、まで。
距離の決定権は、相手に返す。
それが振られた側にできる、最後の気づかいだと思う。
相手のほうから、友達として付き合いを続けたい、と言ってくれたなら話は別。
それは受け取っていい。
ただし、友達の顔をしながら次のチャンスを狙うのは、反則です。
可能性を残そうとする返事ほど、可能性を消す
悔しいから綺麗になるね。まだ諦めないから。
可能性を残す返事として、こういうセリフもよく紹介されている。
正直言って、これはドアに足を挟むのと同じ。
挟まれたドアは、閉めたくても閉められない。
相手は次に会うたびに、そのセリフを思い出して身構えることになる。
おかしなもので、相手がもう一度振り返るのは、ドアを静かに閉めて去った人のほう。
相談所では、お断りから数か月たって、ふと相手を思い出す会員さんがまれにいた。
あの人、いまどうしてますか、と。
名前が挙がるのは、決まってお断りをひと言で受け止めた人。
未練を見せた人の名前が挙がったことは、私の知る限り一度もない。
もう一度の可能性が本当に生まれるのは、状況が変わったとき。
転勤、相手の失恋、ただの時間の経過。
そのとき相手の頭に浮かぶのは、あなたの最後の返事です。
足を挟んだ人か、静かに閉めた人か。
相談所の電話口で聞いた、振られた人の第一声
婚活が伸びた人の第一声は、短かった
お断りを伝える電話では、第一声で、その人のその後がだいたい読める。
伸びていく人の第一声は、ほぼ決まっていた。
41歳で入会したある女性は、お断りが9回続いても、電話口で毎回こう言った。
そうですか、残念です。でも、会えてよかったです。
10秒もかからない。
そのあとで、次は何を変えたらいいですかね、と前を向く。
10回目に会った相手と、彼女は半年後に婚約した。
あとで聞いたら、あの一言は、相手より自分に言い聞かせるためのものだったそう。
伸び悩む人は、第一声から長い。
あの日は体調が悪くて、とか、向こうも乗り気に見えたのに、とか。
言い訳と推理だけで、電話は20分。
はぁ…
気持ちは痛いほどわかる。
ただ、長い第一声は、自分の傷口を自分で広げているのと同じでした。
短く飲み込んだ人ほど、次のお見合いに早く出ていける。
電話口で黙り込んだ人は、悪い返事をしたわけじゃない
電話口で言葉が出なくなる人たち。
沈黙は、気まずいけれど、悪い返事じゃない。
黙ったあとに、少し考えさせてください、と言って電話を切った人がいた。
翌日かかってきた電話の声は、驚くほど落ち着いていた。
昨日はすみません、次に進みます。
口から出る前に、一晩飲み込んだ言葉は、たいてい角が取れている。
沈黙を埋めようとして焦って出た言葉のほうが、あとで自分を苦しめる。
黙るのも、立派な返事のうちです。
電話口で私に怒鳴った人と、何も言わずに消えた人
お断りの連絡をした瞬間、電話口で私に怒鳴った男性もいた。
紹介した相手が悪い、相談所のやり方がおかしい。
(いや、私に言われても…)
翌週、彼から短いメールが届いた。先日は失礼しました、と。
怒鳴ってくれた人のほうが、まだ安心できた。
一番心配だったのは、大丈夫です、とだけ言って、そのまま退会していく人。
返事は短く。でも、気持ちまで短く切り捨てなくていい。
吐き出す先は、相手以外にちゃんと用意しておく。
友達でも、日記でも、カラオケでも。
理由を聞くのは一度だけ。二度目からは自分を削る作業
振られた理由を知りたい気持ちは、当然ある。
聞いていいのは、一度だけ。
聞くなら、責める形じゃなく、教えてもらう形で。
差し支えなければ、ひとつだけ直したほうがいいところを教えてほしい。
答えてもらえなくても、それ以上は押さない。
一度聞いて、そうなんだ、で終われる人は、それを次に活かせる。
納得できずに、本当はどう思ってたの、と何度も聞き直す人もいる。
聞き直すたびに、その人は自分を少しずつ削っていく。
相手から見ても、理由を詰められるのは、別れ話の延長戦でしかない。
ドアノブを握ったまま離さない人の前で、ドアは二度と開かないんです。
振られた時に返してはいけない返事
例文の前に、送らないほうがいい返事の話をしておく。
どうせ私なんか、は相手に慰め役を押しつける
振られた直後に一番出やすいのが、自虐。
どうせ私なんか。やっぱり無理だよね。
本人は自分を下げているつもりでも、受け取った側は、そんなことないよ、と返すしかなくなる。
振った直後の人に、慰める役まで押しつけているわけです。
自虐は、謙遜じゃない。
相手に回す、小さな請求書みたいなもの。
お幸せに、の一言と、SNSの匂わせ
お幸せに。
文字だけ見れば祝福なのに、振られたその日に送ると、たいてい皮肉に読まれる。
送るなら、本当に祝える日まで取っておく。
もうひとつ、見落とされがちなのがSNS。
振られた夜に、意味深な言葉や空の写真を投稿する。
本人に直接は何も送っていなくても、相手の画面にはちゃんと届いている。
匂わせは、宛先のない返事です。
しかも、一番読まれたくない形で読まれる。
共通の友達に、伝えておいて、と頼む
直接言うのがつらくて、共通の友達に伝言を頼む人もいる。
これは一番おすすめしない。
人の口を通った言葉は、たいてい尾ひれがついて届く。
ありがとうって言ってた、が、まだ引きずってるっぽい、に化けることもある。
短くていいから、返事は自分の言葉で、本人にだけ。
振られた時の返事、場面別の例文
返事の中身は、場面で少しずつ変わる。
共通するのは、短く、責めず、相手に宿題を出さないこと。
送る前に一度だけ声に出して読むのもおすすめ。
未練の混ざった文は、たいてい喉のあたりで引っかかるから。
告白して振られたとき
面と向かって振られたなら、言葉より先に、表情が返事になる。
笑顔は無理に作らなくていい。
うなずいて、これだけ言えたら上出来です。
そっか。聞いてくれてありがとう。
相手が何度も、ごめんね、と謝ってきたら、謝らなくて大丈夫、と返してあげて。
LINEで断られた場合は、返すのは2行まで。
返事、ありがとう。気持ちを伝えられてよかった。
スタンプひとつで済ませたくなる気持ちもわかる。
でも、スタンプだけだと、どういう気持ちかの解釈を相手に丸投げすることになる。
言葉を2行置いて、最後にスタンプを1個なら、空気が少しやわらぐ。
告白への返事が既読のまま来ないなら、それもひとつの答え。
追いLINEは送らない!
付き合っていた相手に別れを告げられたとき
ここが一番むずかしい。
積み重ねた時間があるぶん、言いたいことが山ほどあるから。
それでも、別れ話の席で、反論や分析はいらない。
返事の芯は、受け取ったことを伝える一言だけ。
わかった。今まで楽しかった。ありがとう。
最後にひとつ添えるなら、元気でね、くらいがちょうどいい。
泣いてしまうのはかまわない。泣くことと、責めることは別物です。
どうしても納得できないなら、その場で結論を出さず、少し時間がほしい、と返すのもあり。
荷物や合鍵の話は、後日、事務的に。
婚活やマッチングアプリでお断りされたとき
アプリなら、返事をしないまま静かに終えるのも、ちゃんとした終わり方。
返すなら、相手の次の出会いを願う一文を添える。
お時間をいただきありがとうございました。素敵なご縁がありますように。
返信を求める言葉は入れない。
最後のメッセージで相手に手間をかけさせないのが、大人の振られ方です。
相談所なら、返事の相手は担当者になる。
担当者も人間なので、そこでの第一声は、次の紹介にも少なからず響きます。
職場や同じグループの相手に振られたとき
毎日顔を合わせる相手なら、返事より翌日の態度がすべて。
おはようございます、をいつもと同じ声で言えるか。
それだけで相手は救われるし、周りも何も気づかない。
業務の連絡は、むしろ普段より丁寧に。
距離の取り方は、相手のペースに合わせる。
相手が気まずそうに避けてきても、追いかけない。
こちらは普段どおりを続ける。
2週間もすれば、たいてい空気は戻ります。
飲み会で隣になったら、ひとつ席をずれるくらいの気づかいは、あっていい。
返事を送ったあとは、1か月こちらから連絡しない
返事は、送ったら終わり。
そこから最低1か月は、こちらから連絡しない。
誕生日のお祝いも、その年は見送る。
相手のためというより、自分の気持ちが落ち着くまでの冷却期間です。
1か月たって、それでも伝えたいことが残っていたら、そのとき考えればいい。
たいていの場合、もう送らなくていいと思えているから。
振った側の記憶に残っている返事と、私の最悪の返事
2回目のお店のパスタを褒めて去った人
独身時代、知人の紹介で2回会った男性を、お断りしたことがある。
返ってきたLINEは、たった2行。
了解です。2回目のお店のカルボナーラ、また食べに行ってくださいね。
振られたことには一文字も触れず、二人で過ごしたいい時間のほうに触れていた。
読んだ瞬間、胸の奥がジーンとした。
気持ちは変わらなかったけれど、あの人のことは今でも感じのいい人として覚えている。
意外と、振った側の記憶に残るのは、こういう何気ない一文なんです。
楽しかった記憶をひとつだけ置いていく。
去る側にできる、一番かっこいい置き土産。
実は、あのパスタの店、いまでは夫との定番になっている(笑)
