若く見えるね、って褒め言葉のはずなんですよ。
なのに、それを言われた直後に、こっちの意見が通らなくなる。会議でも、店でも、実家でも。ちゃんと喋ったのに、なんか笑って受け流された感じ。
あれ、地味に効きます。じわじわ削られる。
私も三十代半ばまで言われ続けました。得だね、と言われるたびに、いや何が得なんだよ、と内心で毒づいていた。ダサい話ですけど本当のことです。
結婚相談所で、写真と本人を照らし合わせる仕事をしていました。そこで見た垢抜けの正体は、世の中に出回っている手順とはだいぶ違いました。
幼く見えているのは、顔じゃなくて反応
語尾が上がる人は、全員若く見られていた
面談室で気づいたことがあります。
実年齢より下に見える人の共通点、パーツじゃありませんでした。喋り方です。
語尾が上がる。そうですかー? とか、たぶん大丈夫だと思うんですけどー、みたいな。断定しない、余白を残す話し方。
それから、相槌の速さ。相手が喋り終わる前に、はい、はい、はい、と重ねてしまう。せっかちなんじゃなくて、間が怖いんですよ。
このふたつが揃うと、顔の作りに関係なく年下に見えます。四十代でも見えます。
逆に、返事の前に一拍置いて、そうですね、と低い位置で言い切る人。童顔でも、そう見られていませんでした。
垢抜けって、髪の話じゃなかったんだな、と思った瞬間です。
謝る回数が、印象を決めていた
もうひとつ。すみません、の回数。
面談で数えたことがあります。三十分で十七回言った女性会員がいました。何も悪いことをしていないのに。
ドアを開けてもらって、すみません。飲み物を出されて、すみません。私の質問が長引いて、すみません。
本人はマナーだと思っています。周囲は、自信のなさとして受け取っている。
言い換えるだけでかなり変わりました。ありがとうございます、に。同じ場面で、同じ回数でいい。単語をひとつ入れ替えるだけ。
翌月、彼女の写真も服も何ひとつ変えていないのに、印象が変わったという報告が来ました。
垢抜けの第一歩、鏡の前じゃないところにあります。
垢抜けは足し算じゃない。情報量を削る作業
盛るほど、幼く見える方向へ進む
ここが今日いちばん言いたいところ。
垢抜けたい人ほど、何かを足そうとします。前髪を作る、色を入れる、アクセサリーを増やす、柄物を選ぶ、まつ毛を足す。
逆効果でした。
装飾が増えるほど、頑張っている感じが出る。頑張っている状態というのは、未完成に見えるんですよ。だから幼く見える。
垢抜けている人の写真を並べて気づいたのが、要素が少ないこと。色数が二色か三色。柄がない。髪も、凝った巻き方をしていない。
情報量が少ないと、見る側の目は顔に集中します。逃げ場がないので、堂々として見える。
足すのは簡単で、削るのは怖い。だからみんな足すほうへ行きます。
サイズだけ直した女性会員の、翌月
36歳の女性会員がいました。写真映りが本人より五歳ほど下に見える人。しかも、いい意味ではなかった。
服を見たら、全部わずかに大きい。肩の線が落ちて、袖が長く、丈も余っている。
本人に聞いたら、体型を隠したくて、と言っていました。気持ちは分かる。私もやっていた。
提案したのは、買い直しじゃなく、袖丈と肩幅を直すこと。今持っている服のまま、寸法だけ合わせる。
写真を撮り直したら、別人でした。顔もメイクも髪型も同じなのに。
布が余っている状態は、体が服に負けている状態に見えます。それが幼さの正体でした。
成立数は倍以上になりました。かけた金額、直しの数千円だけ(笑)。
婚活市場では、童顔は申し込みが増えて、成婚が遠い
入口の数字と、出口の数字が一致しない
現場の数字の話をします。
若く見える女性会員は、お見合いの申し込みが多い。これは事実です。写真一枚で判断される段階では、明確に有利。
ところが、成婚までの期間は長い傾向がありました。むしろ実年齢どおりに見える人のほうが、決まるのが早かった。
理由を追いかけて、行き着いたのが決定の速度でした。
若く見られてきた人は、誰かに決めてもらう場面が多かったんですよ。店も、進路も、話の締めも。だから自分で決める筋肉が育っていない。
交際が進んで、この人と結婚するかどうか、という段階で止まります。判断できないので。
男性側の終了理由に、よく書かれていた言葉があります。真剣度が分からなかった、と。
真剣じゃなかったんじゃない。決められなかっただけなんですよね。
結婚に向いてなさそう、と言われた29歳
29歳の女性会員が、交際三回目で言われた言葉。まだ結婚とか、考えられない感じですよね、と。
彼女は面談で泣いていました。ちゃんと考えてるのに、と。
彼女の話し方を思い出しながら、私は言いにくいことを言いました。子どもは何人ほしいですか、と聞かれたときの答え、覚えていますか、と。
彼女の答えは、うーん、どうなんですかねー、授かりものですしー、でした。
中身の問題じゃない。語尾です。上がって、伸びて、終わっていない。
言い切る練習を三か月やりました。二人がいいと思っています、で止める。それだけ。
四か月後に成婚しています。顔も服も、何も変えていません。
混ざっている二つの悩みを、分けたほうがいい
若く見られたい人と、幼く見られたくない人は別
二種類が混ざっています。ここを分けないと迷子になります。
老けたくない、実年齢より下に見られたい。これは加齢への抵抗。
軽く扱われたくない、意見を通したい。これは権威の話。
まるで別の課題なのに、どちらも垢抜けたい、という言葉で検索されている。
だから出てくる情報がちぐはぐになるんですよ。若見えメイクの記事と、大人っぽく見せる記事が同時に出てくる。真逆の内容が並んでいて、余計に混乱する。
自分がどちらなのか、先に決めてください。
軽く扱われるのが嫌なら、若さは今のところ敵です。それを認めるのが、たぶん最初の一歩。
両立させようとして、失敗した会員
40代前半の女性会員で、若く見られたいし、しっかりした人にも見られたい、という方がいました。
選ぶ服が、毎回ちぐはぐでした。かっちりしたジャケットに、リボンのついたブラウス。落ち着いた色の靴に、キャラクターの小物。
どちらの効果も出ません。打ち消し合うので。
一度、片方に振り切ってもらいました。落ち着いた側に全部寄せる。かわいい要素をゼロにする。
本人は最初、寂しいと言っていました。私らしさが消える、と。
三か月後、こう言ったんですよ。人の話が、前より通るようになりました、と。
らしさは消えていませんでした。単に、見せる順番が変わっただけ。
名札を作り直した日の話
下の名前で呼ばれ続けた七年間
私は相談所に入ったのが二十代後半。会員さんから、下の名前にちゃん付けで呼ばれることが多かったんですよ。
悪気はありません。むしろ親しみです。でも、年上の会員さんに助言をするとき、明らかに通りが悪かった。
まだ結婚もしてないのに分かるの、と言われたことも一度や二度じゃない。事実だったので言い返せなかった。あれは、はぁという感じでした。
入社三年目に、名札を作り直しました。フルネームと、資格の名称を入れて。服も、明るい色を全部やめた。
効果はすぐには出ませんでした。半年くらいかかったと思う。
それでも、ある時期から、ちゃん付けが消えました。
変えたのは見た目じゃなくて、返事の長さだった
今振り返ると、名札も服も、たぶん本質じゃありませんでした。
いちばん効いたのは、返事を短くしたことです。
それまでの私は、聞かれてもいない説明をずっと足していました。そうですね、あの、たぶんそうだと思うんですけど、ケースによっては違うこともあって、と。
不安だったんですよ。断言して外れたら怒られると思っていた。
ある日、上司に、そこは、そうです、で止めなさい、と言われました。
やってみたら、驚くほど楽でした。そして相手の態度が変わった。
削るって、こういうことなんだと思う。服も、言葉も、同じ作業でした。
幼く見られるのが悩みなら、鏡の前より、次に人と話す場面のほうに答えがあります。語尾を下げて、一拍置いて、短く言い切る。
それだけで足りるとは言いません。ただ、髪を切る前にできることが、まだ残っているはずですよ。
