ドアをバタンと閉める。
食器をガチャンと置く。
物を取るときの手つきが雑で、袋がグシャッとなる。
言われるまで、自分では何も感じていなかったはず。
え、そんなに音してた?
がさつだと指摘されて、初めて自分の動作を意識する。この手の指摘で本当に困るのは、指摘されても意味がわからない人だ。
音がしていることを認識できない人。何が問題なのか本気でわからない人。そっちは相当きつい。
自覚がある人は、二週間で変わります。マジで。
性格を直そうとするから失敗する
先に方向を修正しておきます。
がさつは性格じゃありません。動作です。
ここを間違えると、自己啓発の沼に落ちる。丁寧な人間になろう、思いやりを持とう、細やかな心を育てよう。
無理でしょ、そんなの。私も無理。
変えるのは物を置く速度だけ。それ以外は一切いじらない。
まず、どこが見られているのか
がさつという言葉は範囲が広すぎて、対処しようがない。だから婚活の現場では、実際に指摘が出た場面だけを集めていました。
音、これが全体の七割
お見合いの後に女性から出る感想で、圧倒的に多かったのがこれ。
コップを置く音。椅子を引く音。カバンを床に落とす音。ドアの閉め方。
本人は乱暴にしているつもりがゼロなんです。ただ、最後の一瞬で手を放してる。
物を置くときに、五センチ手前で手を離す。あとは重力に任せる。だから音が出る。
実際に相談所の面談室で会員さんに実演してもらったことがあります。本人がびっくりしてた。こんな音出てました、って。
手の使い方、これが二番目
片手で受け取る。片手でお金を渡す。おしぼりの扱いが雑。
細かいでしょ。でも見られてる。
片手だと動作が早くなるんですよ。早い動作は、それだけで雑に見える。
逆に言えば、両手を使うだけで自動的に速度が落ちる。仕組みで解決できる部分。
話しながら動く、これが盲点
意外と多かったのがこれ。
喋りながら物を触ると、手元の注意が完全に飛びます。会話に脳のリソースを全部持っていかれるから。
そういう人は、黙っているときは動作が丁寧なのに、盛り上がった瞬間に雑になる。
女性側はこの落差を見てる。楽しくなると乱暴になる人、として記憶される。
デート中がいちばん喋る場面なので、いちばん雑になる場面と重なるという不運。
二週間で変わった男性会員の話
四十二歳、二十七回お見合いして全滅
忘れられない会員さんがいます。
四十二歳、技術職の男性。真面目で、約束を守って、収入も安定していた。それなのに二十七回お見合いをして、一度も交際に進まない。
女性側の感想を集めて、共通していた言葉がこれ。
落ち着かない感じがして。
最初は意味がわからなかった。彼、むしろ静かな人だったから。
面談室で四十分ほど雑談してもらって、やっとわかりました。
彼、動作の一つ一つに音がついてた。ペンを置く音、書類をめくる音、水を飲むときのグラスの音。
静かな人が立てる音だから、余計に目立ってたんです。
直したのは、たった一つの習慣
私が彼に伝えたのは一個だけ。
物を置くとき、テーブルについてから一秒、手を離さない。
それだけ。
姿勢も、話し方も、服装も、何もいじりませんでした。
二週間後の面談で、彼の動作が別人になってた。音が消えてるんです。
その次のお見合いで、二十八回目にして初めて交際に進みました。
成婚したのは、その半年後。
彼が後で言ってた言葉が忘れられない。
一秒って、こんなに長いんですね、と。
なぜ一秒だけで全部が変わるのか
理由を考えたことがあります。
物を置くときに一秒待つと、その一秒の間、視線が手元に落ちる。視線が落ちると、頭が一瞬止まる。
その止まりが、全体の速度を下げるんです。
歩き方が変わる。座り方が変わる。話す速度も落ちる。
一箇所いじると、連動して全部変わった。
だから複数の項目を同時に直そうとする必要がない。むしろ、やらないほうがいい。
直らない人に共通していたもの
言い訳の第一声が、いつも同じ
指摘されたときの反応で、直るかどうかがだいたいわかりました。
昔からこうなんです。
家族もそうだったので。
そういう性格なんですよ。
この三つのどれかが出た人は、まず直らなかった。
理由は、原因を過去に置いているから。過去は変えられないので、そこに原因を置いた時点で対処不能になる。
逆に、へえ、音してました? と驚いた人は、ほぼ全員直りました。
驚けるということは、現在の自分の動作を見ているということだから。
丁寧にしようとした人ほど、不自然になった
もう一つの失敗パターン。
がさつを直そうとして、全体を丁寧にしようとする人。
これは高確率で失敗します。動作が芝居がかるから。
やたらゆっくりお辞儀をしたり、必要以上に恭しくメニューを扱ったり。
女性側の感想がひどかった。
なんか、接客されてるみたいでした。
がさつより悪化してる(笑)。
直すべきは動作の質じゃなくて、終わり方だけなんですよ。始めは雑でいい。手を離す瞬間だけ整える。
家庭内のがさつは、また別の問題
結婚してから言われるようになった人へ
婚活中じゃなく、パートナーから指摘されている人もいると思う。
この場合、少し話が変わります。
家庭内で音が問題になるのは、音そのものより、機嫌の表明に見えるから。
食器をガチャンと置くと、相手は不機嫌のサインとして受け取ります。実際は何も考えていないのに。
つまり毎日、意図しない感情表明を繰り返していることになる。
私、これで夫と何度も揉めました。
別に怒ってないのに、怒ってると思われる。こっちからすると理不尽でしょ。でも受け取る側からしたら、音は音なんです。
子どもがいる家は、音が伝染する
これは自分の家で気づいたこと。
子どもの物の扱い方が、完全に私のコピーになっていた時期があります。
おもちゃの箱をドンと置く。冷蔵庫をバンと閉める。
誰に似たんだろうと思って、ある日ハッとした。私だ、と。
親の動作は説明なしで移ります。言葉より速い。
これに気づいてから、私は自分の音に敏感になりました。今でも完璧じゃないけど。
結局、がさつは損なのか
がさつな人が持っているもの
七年見てきて思うのは、がさつな人には共通した長所があるということ。
動作が早い。決断が早い。細かいことを気にしない。
迷わないんですよ。
丁寧な人が三秒考える場面で、彼らは一秒で動く。
これ、生活の中ではとんでもない強みです。特に子育て。私自身、がさつな夫に助けられた場面が数え切れないほどある。
だから全部を丁寧に変えたら、その人の速度も一緒に消える。
そこは残したほうがいい。
直すのは、人が見ている場面だけでいい
私の結論はこれです。
全部を直す必要はない。人と一緒にいる場面の、物を置く瞬間だけ整える。
一人でいるときは好きにやればいい。ドアも思い切り閉めればいい。
がさつを性格の欠陥として扱うから、直すのがしんどくなる。動作の癖として扱えば、二週間で終わる話です。
