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彼氏が好きと言ってくれないなら、言わせるより翻訳したほうが早い

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夫が私に好きと言ったのは、出会ってから数えるほどしかない。
プロポーズの夜に一回。
長女が生まれた日、分娩室の隅でもう一回。
あとは忘年会帰りに泥酔して、玄関で寝言みたいにつぶやいたのが最後。
それでも別れる予定は、まったくない(笑)。

目次

好きを連発する男が、相談所で何をしていたか

仮交際3日目の、大好きです

相談所には、仮交際という段階がある。
お見合いのあと、もう少し会ってみたい相手と進むお試し期間のこと。
ここでは、複数の人と同時に進めてもルール違反にならない。

ある30代の男性会員さんは、仮交際に入って3日目に、女性へ大好きですと送っていた。
受け取った女性会員さんは、頬を染めてその画面を私に見せてくれた。
こんなに想ってくれる人、初めてです、と。

その男性も、たまたま私の担当だった。
彼は同時に3人と仮交際の真っ最中。
しかも悪びれもせず、面談でこう言い放った。
好きって言っとけば、女性は安心するんでしょ。
(安心させる相手、3人いるけどね)
喉まで出かかった言葉を、麦茶と一緒に飲み込んだ。

あとで聞けば、同じ文面は3人全員に届いていた。
そして彼が成婚まで進んだ相手は、一人もいない。

反対に、真剣交際に進んでも一度も好きと口にしなかった男性もいた。
お相手の女性は不安になって、何度も私のところへ相談に来た。
彼の口から初めてその言葉が出たのは、プロポーズの瞬間。
そのご夫婦からは、私が退職した今も年賀状が届く。

言わない男にとって、好きは実印

29歳の大輔さんは、彼女から好きと言ってくれないと不満をぶつけられる側だ。
口下手で、照れくさくて、どうしても素直に言えない。
言えば彼女が喜ぶのはわかっている。
それでも、無理に絞り出した言葉は嘘っぽく響きそうで怖いらしい。

27歳の陸さんも、恥ずかしさが勝って口にできない。
彼女を好きなのは確かだと、そこだけは迷いなく言い切った。

二人の話を聞いて頭に浮かんだのは、実印だった。
認印なら、宅配便の受け取りで気軽に押せる。
実印は違う。
取り消しのきかない書類にしか使わない。
言わない男にとって、好きは実印のほうなんだと思う。
軽々しく押したら、中身まで安っぽくなる気がして。
嘘っぽくなるのが怖い、という大輔さんの言葉は、まさにその感覚。

3日目の大好きですは、たぶん認印。
ハンコの重さが違う者同士で、押した回数を比べても仕方がない。

恥ずかしい、の奥に転がっているもの

26歳の美咲さんは、付き合って半年の彼に思い切って頼んだ。
好きって言ってほしい。
返ってきたのは、恥ずかしい、の一言だった。
告白のとき以外ほとんど聞いたことがないし、手をつなぐのも少ない。
最初は照れているだけだと受け止めていた。
けれど時間が経つにつれて、本当に好きなのかと不安が募っていったそう。

相談所時代、無口な男性会員さん何人かに、同じ質問をしたことがある。
ご両親は家で、好きとか言い合ってました?
ほぼ全員が、首を横に振った。
父親が母親に好きと言うのなんて、一度も見たことがない、と。
そういう家で育った人にとって、好きは教科書でしか習わなかった外国語みたいなもの。
発音は知っていても、自分の口から出すと妙に浮く。
恥ずかしい、の正体は、そのあたりに転がっている。

美咲さんはそれ以来、言葉を待つのをやめた。
代わりに彼の行動を見ることにした。
会う約束は彼から言い出してくれるし、体調を崩したときは連絡をくれる。
大切にされているのかもしれない、と少しずつ思えるようになってきたところだ。

彼の好きは、別の言葉に化けている

今日何食べたい、は翻訳前の好き

28歳の莉子さんの彼は、好きとは言わない。
そのかわり、会うたびに今日は何が食べたいかを聞いてくれる。
予定の調整も、いつも彼の役目。

30歳の沙織さんの彼は、毎日連絡をくれて、デートの段取りも自分で組む人。
35歳の優子さんの今の彼は、困ったときにすぐ動いてくれる。
会う約束を持ちかけるのも、たいてい彼のほう。

ここに並んだ行動は、どれも同じ一語の言い換えだ。
好き、の方言。
標準語で言えない人は、自分の地元の言葉でしゃべっている。
聞き取れないと、何も言われていないように感じるだけで。

実は、夫の方言は自転車の空気だ。
私の自転車のタイヤは、いつ乗っても張っている。
入れている現場を、私は一度も目撃していない。
雨の翌朝には、サドルまで拭いてある。
本人に聞いても、別に、としか言わない。

ある日、突然思いついて言ってみた。
タイヤの空気、あれ好きって意味で受け取っとくね。
夫は返事をしなかった。
かわりに耳がカーッと赤くなって、足早に模型部屋へ消えていった。
(あ、正解だったんだ)

これ、意外と使える!
彼の行動に気づいたら、好きって意味で受け取っとく、と軽く口に出す。
彼は否定もしないし、肯定もしない。
でも二人だけの辞書に、一語ずつ言葉が増えていく。
無理に言わせるより、よっぽど平和だ。

行動で示すタイプ、という名の言い訳

ここで一つ、水を差しておく。
行動を見ればいい、が通用しない彼もいるから。

優子さんの前の彼氏は、好きとも言わず、行動もほとんどなかった。
連絡はいつも彼女から。
会う約束を取りつけるのも、決まって彼女。
当時の優子さんは、言葉がないことに不安を抱えていた。
振り返ってみれば、不安の出どころは言葉じゃなかったはず。

相談所にも、自分は行動で示すタイプなんで、と胸を張る男性がいた。
で、その行動とやらを聞いてみると、具体的な話が一つも出ない。
誘うのも、店を探すのも、お相手任せ。
行動で示すタイプ、は貼るだけなら誰でも貼れるラベルだ。

見分け方は単純。
こっちが何も仕掛けなかった日に、彼から何が届くか。
美咲さんの彼は、自分から会う約束をしてくる。
優子さんの今の彼は、困ったと一言漏らせば飛んでくる。
こちらが黙っていても続く行動なら、それは彼の方言。
こちらが動いたときにだけ返ってくるなら、ただの反射かもしれない。

聞かないと出てこない好きは、自販機の缶コーヒー

24歳の彩花さんの彼は、付き合い始めの頃は好きと言ってくれていた。
最近は、こちらから聞かないと出てこない。
新鮮さが薄れただけ、と最初は流していた。
そのうち、義務で言わされている空気が鼻につくように。
自分から好きと伝えても、返事が薄いと余計に寂しくなる。

ボタンを押せば出てくる好きは、自販機の缶コーヒーに似ている。
ガコンと落ちてきて、それなりに温かい。
でも味は毎回同じで、心までは温まらない。
彩花さんが今、言葉を求めるのを控えて彼の行動を見ているのは、勘のいい選択。

羨ましさの話もしておきたい。
莉子さんは行動を見ているうちに、言葉がなくても大丈夫かも、と思えるようになった。
そんな莉子さんでも、友達の彼氏ののろけ話を聞くと、胸の奥が少しうずく。
自分たちはこれでいいのか、と時々考えてしまうそう。
沙織さんも、行動のおかげで安心できるようになった一人。
不安がゼロになったわけじゃない。
やっぱり言ってほしい、と思う瞬間は今もある。

正直言って、それで普通。
行動を見て安心しなきゃ、と自分に言い聞かせすぎるほうが危うい。
言葉がほしい本音を、押し入れに閉じ込めるのと同じだから。

アドバイザー時代、成婚退会の書類を前に泣き出した女性会員さんがいた。
行動で十分伝わってるから平気、とずっと笑っていた人。
なのに最後の最後で、一度も好きと言われていないまま結婚していいのか、と崩れた。
結局、私から彼に事情を伝えて、彼は彼女の前で初めてその言葉を口にした。
二人は予定どおり、笑顔で退会の日を迎えている。
押し入れの扉って、一番開いてほしくない場面に限って勝手に開く。

好きって言って、より効くお願いの仕方

催促された男たちの、居心地の悪さ

男性側の声も、かなり集まった。
32歳の健太さんは、気持ちを言葉にするのが苦手で、行動で示すほうだと自覚している。
彼女が落ち込んでいればそばにいるし、欲しがっていた物を覚えておいて買ってくる。
彼女の返事は、言葉がほしい。
何度も言われるうちに、好きが義務のように感じられてしまう時があるという。

31歳の翔太さんは、もともと感情を表に出さないタイプ。
言ってくれないと不安だと彼女に言われて、意識して口にするようにした。
けれど言ったあとで、これでいいのかと自分でも首をかしげる。
言葉を増やして関係が良くなるのか、重荷になるのか、まだわからない。

大輔さんも、今はたまに言うようにしている。
自然に湧いてくる言葉じゃないから、まだぎこちない。

ここで見えてくるのは、催促された好きは、言う側にも擦り傷を残すってこと。
好きって言って、というお願いは、口にされた瞬間にノルマへ変わる。
ノルマで出した言葉を、いちばん信じられないのは出した本人。
彼女は満たされないし、彼は空っぽになっていく。
誰も得をしない取引だ。

陸さんと隼人さんが決めた、小さなルール

うまく着地したカップルには、共通点があった。
回数は決めていない。
決めているのは、いつ言うか、だけ。

陸さんの彼女は、言ってくれないと好きじゃないのかなと思ってしまう、と打ち明けた。
陸さんは少しずつ言うようにしたけど、毎回は難しい。
そこで二人が決めたのが、不安なときは彼女のほうから聞く、というルール。
彼女もそれで、少し落ち着いたようだ。

34歳の隼人さんの場合は、言葉が必要なときは彼女が伝える、という約束。
以来、彼女が不安そうなときにだけ、好きと言うようにしている。
毎回じゃないのに、関係は前より穏やかになった気がするって。
健太さんのカップルも、ほぼ同じ約束を交わした。
無理に増やさなくていい、そのかわり不安なときは伝えること。

好きを、毎日配る試供品から、困ったときの常備薬に変える。
私はこれが、もっとも揉めにくいやり方だと見ている。
常備薬は、出番が少ないほど一回の効き目が強い。
しかも頼む側が、今日は飲みたい日だと自分で申告できる。
言う側にとっても、いつ求められるかわからない抜き打ちテストより、ずっと気が楽だ。

頼み方ひとつで、無口な男は口を開く

私自身、頼み方で一度大失敗している。
新婚の頃、夫に詰め寄ったことがある。
なんで一回も好きって言ってくれないの、と。
返ってきたのは沈黙。
リビングがシーンと静まり返って、テレビの音だけがやけに大きく響いた。
あの時の空気は、今でも思い出したくない。
責められていると感じた人は、言葉どころか口ごと閉じてしまう。

何年か経って、次女の夜泣きで心がすり減っていた夜。
今日だけでいいから、一回だけ言ってくれない?とお願いしてみた。
夫はテレビから目を離さないまま、小さな声で言った。
好きだよ。
ずるい。
まさか、あんな棒読みで泣きそうになるなんて(泣)。

二回の違いは、中身じゃなくて頼み方にあった。
一つめは、相手を責める形ではなく、自分の気持ちを差し出す形にしたこと。
二つめは、回数を今日の一回に絞ったこと。
なんで言わないの、は相手を裁く言葉になる。
今ちょっと不安だから一回だけ、なら自分の状態の報告で済む。
裁かれると人は身構えるけど、報告されると手を貸したくなるもんだよ。

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