あの一言で舞い上がる前に
髪切った?
言われた瞬間の、あのふわっとした感じ。分かります。
しかも言ってきたのが気になっている相手なら、その日の午後は仕事が手につかない。
先に、いちばん夢のない話から書きます。
気づくことと、好きなことは、まったく別の回路で動いてます。
女性は、全員分の変化を更新している
これは自分の話でもあるんですけど、女性はけっこう常時観測してます。
職場の人が眼鏡を変えた。鞄が新しい。髭を剃った。前髪が短い。
好きとか嫌いとか関係なく、全部入ってくるんですよ。勝手に。
理由は単純で、身なりの変化に反応するのが習慣として染みついているからだと思ってます。自分が毎日その調整をしているので、他人のそれも目に入る。
だから、あなただけを見ていたわけじゃない。
残念ですけど、そこは正確に受け取ったほうがいい。
気づいたことを口に出すかどうかは、別の判断
観測は自動です。発言は手動なんですよ。
気づいた100件のうち、口に出すのは何件か。そこにだけ、その人の意思が入ってる。
つまり見るべきは、気づいたかどうかじゃなく、言ったかどうか。
そして、なぜ言えたのか。
ここを掘ると、けっこう残酷な事実が出てきます。
好意がある相手には、たいてい言えない
見ていたことが、バレてしまうので
本命の男性の髪型が変わった時、女性が何を考えるか。
気づいたと言ったら、いつも見てると思われる。
この一瞬の計算が入るんです。
そして多くの場合、飲み込む。何も言わずに、視線だけ二回くらい往復させて終わり。
逆に、どうでもいい相手には軽く言えます。
誤解される心配がないので。ノーリスク。
好意の量と発言のしやすさが、反比例してるわけです。
お見合いで髪型を褒めた女性は、その後断っていた
7年、相談所で両者の感想を読める立場にいました。そこで気づいたことがひとつ。
初対面で相手の外見に具体的に言及した会員は、交際に進まないことが多かった。
特に女性側。
爽やかな髪型でしたね、と書いてくる人は、たいてい交際希望を出していません。
理由を本人に聞いたことがあります。返ってきた答えが、ぐさっときた。
何も感じなかったので、褒めるところを探しました、と。
本気の相手について、女性は外見の話をしません。
書くのは、話しやすかったとか、緊張しましたとか、そういう自分の状態のほう。
評価する側に立った時点で、その人はもう対象を外から見てるんですよ。
判定に使えるのは、いつ言われたか
ここから実務。言葉の内容じゃなく、発生した位置を見ます。
会って何秒後だったか
これがいちばん精度が高い。
顔を合わせて3秒以内なら、事前に何も準備していません。目に入った瞬間に口が動いてる。
反射です。反射は取り繕えない。
問題は、しばらく喋った後にぽろっと出た場合。
それ、会話が途切れた時の埋め草として使われた可能性があります。
沈黙が気まずくて、視界にあるもので話題を作った。天気の話と同じ扱い。
言われた時間帯を思い出してみてください。
挨拶の直後だったなら、そこそこ意味があります。
二人きりか、周りに人がいたか
もうひとつの軸。
人前で言われたなら、それは安全な発言です。誰にも誤解されない場所で出せる言葉なので。
二人きりの時に言われたなら、意味が変わります。
その状況で外見に触れるのは、それなりに勇気がいるので。言った後、少し早口になっていませんでしたか。
あと、視線。
言いながらこちらの顔を見続けていたなら、ほぼ社交です。
言った直後に視線を外したなら、そっちのほうが望みはある。自分の発言に照れてるので。
いつ切ったの、まで来たら別の話
質問が二段目に入るかどうか
実は、髪切った?の一言だけでは何も分かりません。
分かるのは、そこから会話を伸ばしてくるかどうか。
いつ切ったの。どこで切ってるの。前のほうが好きだったな。
二段目、三段目と続く時、その人はその話題を終わらせたくないと思ってます。
情報が欲しいんじゃない。会話を続ける口実として使ってる。
逆に、髪切った?似合ってるね、で会話が終わったなら、それは処理済みの案件です。
言うべきことを言った、で完結してる。
似合ってる、は情報量が少ない
褒め言葉が付いてきたから脈あり、と思った人。
似合ってるという言葉、実はかなり安いです。
髪型に触れておいて何も評価しないと、否定になってしまうので。だから自動的に付ける。マナーの一部なんですよ。
価値があるのは、評価じゃなく感想のほうです。
あ、なんか若く見える。え、別人みたい。ちょっと寂しい。
主観が混ざった反応が出たなら、その人は少し動揺してます。整った褒め言葉より、崩れた一言のほうが濃い。
勝負が決まるのは、言われた後の10秒
いや、失敗しちゃって、で全部潰れる
髪切った?と言われた男性の返答、かなりの割合でこれです。
そうなんですよ、失敗しちゃって。
気持ちは分かる。照れ隠しなので。
ただ、これを言われた側は行き場を失います。
そんなことないよ、と否定させられる作業が発生する。話題を振ったら、フォローの義務を背負わされた形になる。
面談で、女性会員から似た愚痴を聞いたことがあります。
褒めると否定されるので、だんだん何も言わなくなりました、と。
自虐は、相手の観測をやめさせる行為でもあるんですよ。
受け取って、一個返す
正解は、拍子抜けするほど単純です。
気づいてくれてありがとう、と受け取る。それだけ。
そのあと、余裕があれば一個返してください。相手の変化に、こちらも触れる。
そういえば、髪色変わりました?くらいで十分。
これをやると何が起きるか。観測の往復が生まれます。
片方が見ているだけの関係が、お互い見ている関係に切り替わる。
脈ありかどうかを判定するより、脈を作るほうが早いんですよ。実際。
私が言えなかった人と、毎回言っていた人
26歳、好きな先輩の前髪に何も言えなかった
自分の話をします。
26歳の頃、職場に気になっている先輩がいました。
ある朝、明らかに髪を切ってきたんです。しかも、かなり短く。
私、何も言えませんでした。
言おうとして、口を開いて、おはようございますだけ言って通り過ぎた。
デスクに座ってから、心臓がばくばくしてたのを覚えてます。
今のタイミング、完璧だっただろ
一日中、後悔してました。
昼休みにもう一度チャンスがあったのに、また言えなかった。
どうでもいい同僚には、毎回言っていた
同じ時期、別の男性同僚には毎回言ってました。
あ、髪切りました?短いほうがいいですね、みたいなことを、なんの緊張もなく。
何も感じていなかったからです。
言った後にどう思われるかを、一秒も考えていなかった。
たぶん彼、その時に少し期待していたかもしれません。今になって、そう思う。
はぁ…と、これを書きながら息が漏れてる。
声をかけやすさは、優しさでも好意でもなく、単に無関心の副産物だったりする。
先輩には、結局最後まで髪の話をしませんでした。
何年もあとに再会した時、当時よく喋ってた人ですよねと言われて、実は逆だったんですけど、と説明する気力もなかった。
観測対象に入った、その事実のほうが大きい
視界にすら入らない人が、大半なので
ここまで散々冷や水をかけてきましたけど、最後に別のことを言います。
髪切った?と言われたということは、あなたは彼女の視界に入ってます。
これ、当たり前じゃないんですよ。
職場に何十人いても、変化を検知される人と、されない人がいる。
存在が背景として処理されている人には、この一言は永久に来ません。
恋愛対象かどうかは分かりません。それは今日の時点では判定不能。
でも、認識対象には入っている。ここは確定です。
そして恋愛の話は、たいてい認識の後から始まります。順番としては、悪くない場所にいるんですよ。
