あの言葉が指しているのは、性欲じゃない
女に飢えてる。
言われた側からすると、なかなかの一撃です。
反論もしにくい。否定すればするほど、それっぽくなるやつ。
ただ実際にこの言葉が飛ぶ場面を思い出してみてください。性欲の話をしている人、ほとんどいないでしょ。
使われるのは、余裕のなさを見た時だけ
飲み会で、女性の隣にだけ座りに行く。
褒め方が過剰。
質問の量が多い。距離が近い。連絡の頻度が高い。
並べると分かるんですけど、全部、行為の種類じゃなく速度の話なんですよ。
同じことを余裕のある人がやっても、誰も飢えてるとは言いません。
判定されているのは行動じゃなく、切迫感。
だから、この言葉を性欲の指摘だと受け取ると、対処を全部間違えます。
下心を隠す方向に努力しても、まったく効かない。じりじりした空気のほうが漏れてるので。
女性が反応しているのは、目の焦点
気持ち悪いと感じる瞬間について、何度も女性会員に聞いたことがあります。
返ってきた説明で、いちばん腑に落ちたのがこれ。
見られてるのに、私を見てない感じ。
好意を向けられること自体は、嫌じゃないんですよ。むしろ嬉しい。
不快になるのは、自分じゃなくてもよかったと分かった時です。
目は合っている。なのに焦点が、自分の少し手前にある。
そこに映っているのは、相手から得られるはずの何か。
その一瞬を、人はけっこう正確に検知します。理屈より先に、身体が引く。
いちばん飢えて見えたのは、経験が多い男だった
女に飢えてる男イコール、モテない男。
7年、婚活の現場にいて、この等式は完全に崩れました。
20代から途切れなかった41歳の、入会後
41歳の男性会員がいました。入会理由は、8年続いた交際が終わったから。
それ以前も、途切れた期間がほとんどない人です。
私は正直、この人はすぐ決まるなと踏んでいました。経験値が違うので。
お見合いの感想欄が、荒れました。
距離が近い。初回で手が触れた。褒め言葉が唐突。
一件ではなく、続けて。
本人に確認したら、きょとんとしてました。
今まで、こうやってうまくいってましたけど、と。
嘘じゃないんですよ。彼はただ、過去の成功パターンを再現していただけ。
ただ、隣に誰かがいる状態でやる同じ動作と、8年ぶりに一人になった状態でやる同じ動作。
まとう温度が、まるで違いました。
空腹は、食べていた人にだけ来る
逆のケースも担当してます。
38歳、交際経験がほぼゼロの男性会員。
がっついていると評されたこと、一度もありません。むしろ淡白すぎると書かれてた。
長く欠乏している人は、飢餓感が麻痺するんです。
期待の回路が閉じてるので、動作が遅い。手も出ない。
飢えは、欠乏の総量では決まりません。落差で決まる。
毎日食べていた人が三日抜くと、目の色が変わる。
何年も食べていない人は、静かになる。
女に飢えてると笑われている人が、非モテとは限らない。むしろ直前まで満たされていた人である可能性が、けっこう高いです。
渇いているのは女性じゃなく、自分の値札
じゃあ、彼らが本当に欲しがっているものは何か。
面談で掘り続けて、行き着いた答えを書きます。
値段をつけてくれる場所が、一箇所しかない
34歳の男性会員が、ぽつりと言った一言があります。
女性に選ばれないと、自分に値段がつかない気がするんです。
その時、私はメモを取る手が止まりました。ぎくっとしたんですよ。
彼、仕事では評価されていませんでした。家族とも疎遠。友人と会うのも年に数回。
承認の入り口が、恋愛しか残っていなかった。
入り口が一つしかない人は、そこに全体重をかけます。
全体重がかかった状態を、周囲は飢えと呼ぶ。
性欲の話じゃないと最初に書いたのは、これです。要求しているのは接触じゃなく、査定なので。
誰でもいいんじゃなく、誰でもいいから採点してほしい
誰にでも同じ態度を取る、という特徴。よく挙げられますよね。
あれ、女性なら誰でもいいという意味じゃないんです。
点数をつけてくれる人なら、誰でもいい。
微妙な差に見えて、受け取る側の感触はまるで違う。
自分が対象じゃなく、審査員として呼ばれていると分かるので。
好意を向けられているのに、なぜか消耗する。あの現象の正体はこれだと思ってます。
満腹にしても、飢えは消えなかった
恋人ができれば直る。
これも、現場で否定された説です。
成婚から半年後、女性側から相談が入った
入会時に、まさに飢えていると評されていた男性会員がいました。
1年かけて成婚。私は肩の荷が下りた気分でいた。
半年後、奥さんになった女性から連絡がありました。
夫が、他の女性からの好意を求め続けている、と。
不倫ではなかったです。ただ、職場の女性の反応に一喜一憂して、家で不機嫌になる。
供給されたのに、渇きが止まらない。
というより、供給されたことで別の恐怖が生まれてました。
この一箇所を失ったら、自分の値段がゼロになる。だから確認を繰り返す。
入り口を増やさないまま満腹にすると、次は途切れる恐怖に変わるだけなんですよ。
形が変わっただけで、中身は同じ。
消えた人がやっていたのは、恋愛と関係ない作業
逆に、飢餓感が抜けた会員もいます。
39歳の男性。私が勧めたのは、婚活の回数を減らすことでした。
代わりに、昔やっていた登山の会に戻ってもらった。
3か月後、お見合いの感想欄が変わりました。
落ち着いている、話しやすい。
本人の見た目も話し方も、何ひとつ変えていません。
変わったのは、その日に女性からどう評価されるかの重みです。
週末に別の居場所ができた時点で、目の前の一件が人生の全部じゃなくなった。
値札を貼ってくれる場所を分散させる。それだけで、切迫感はすとんと抜けます。
飢えて見えないための、実務的な話
質問の総量を、半分にする
即効性があるのは、これ。
飢えて見える人は、質問が多いです。相手の情報を取りに行きすぎる。
仕事は何を、休みは何を、どこに住んでて、兄弟は。
一つひとつは普通なのに、連続すると取り立てになる。
情報を集める速度が、そのまま焦りとして読まれるんですよ。
代わりに、自分の話を先に置く。沈黙を埋めない。
何も聞かない時間を作れる人が、余裕のある人に見えます。
実際に余裕がなくても、そう見える。演技でも構いません、そこは。
言われて傷ついた人へ、あれは人格の判定じゃない
この言葉を投げられた人が、いちばん苦しいのは更生不能に聞こえるところでしょう。
性格の欠陥を指摘された気になる。
違います。
指摘されているのは、承認の入り口が一箇所しかない状態です。
状態は、変えられる。三か月あれば普通に変わります。
飢えているように見える人と、そうでない人の差は、人間性じゃなく分散の数でした。
これは7年見てきた実感として、はっきり言い切れます。
人を飢えてると笑っていた頃の、私
28歳、合コンの帰り道
恥ずかしい話をします。
28歳の頃、私は他人の飢えに異様に敏感でした。
合コンで、女性陣に順番に話しかけていく男性がいたんです。
帰りの居酒屋で、友達と笑ってました。あの人ガツガツしすぎ、と。
けらけら笑って、盛り上がって。
家に帰って、化粧を落としながら、鏡の前で急にしんとしました。
その日、私は誰からも連絡先を聞かれていなかった。
敏感だったのは、同じ匂いを知っていたから
何年もあとになって理解しました。
他人の飢えを瞬時に嗅ぎ分けられる人は、たいてい自分がその状態を通っています。
私は当時、婚活に完全に焦っていました。
仕事は面白くなくて、友人は次々に結婚して、承認の入り口が一箇所に絞られていた。
彼を笑うことで、自分は違う側にいるふりをしていただけ。
投影というやつです。
飢えてる人が気持ち悪いという感覚には、まれにこれが混ざってる。全部がそうだとは言いません。ただ、混ざる時がある。
私は混ざってました。今でも、あの帰り道を思い出すとちくちくします。
その言葉を、誰かに使う前に
判定コストがゼロで、当たる確率が低い
最後に、はっきり書いておきます。
女に飢えてるという判定は、便利すぎるんですよ。
一秒で下せて、証明も反証もできない。
そして、たいてい外れます。
本当に危険な相手は、飢えて見えません。余裕があるように振る舞えるので。
現場で女性会員が実害を受けたケースは、むしろ落ち着いた印象の男性側で起きてました。
不快感そのものは、正しい。無視しなくていい。
ただ、その感覚に飢餓という名前をつけた瞬間、相手を人格ごと処分する話になります。名前が強すぎるんです。
合わないという判断だけで、足りる
距離が近くて嫌なら、距離を取ればいい。それだけで済む話に、烙印を足す必要はない。
言われた側は、けっこう長く引きずります。私は面談で、10年前に言われた一言を今でも抱えている男性に何人も会いました。
飢えているように見えるとしたら、その人の生活に、たぶん空白があります。
埋めるべきは女性の隣じゃない。空白のほうです。
そして、埋まった時にいちばん驚くのは本人だったりしますから。
