また言われた。変わってるね、って。
どこが?と聞き返したいけど、本気で分からない。悪口なのか褒め言葉なのか、直すべきなのか。
自覚がないのは、訛りが自分に聞こえないのと同じ
普通って、実体のある基準じゃなくて、自分が浸かってきた環境の平均値のこと。育った家、通った学校、いた職場。そのサンプルから勝手に編集された、あなた専用の標準語。
方言で考えると早い。地元にいる限り、自分が訛ってるなんて誰も思わない。上京して、初めて指摘されて、きょとんとする。イントネーション独特だね、って。言われた本人の中では、生まれてからずっと、それが地の音だったのに。
あなたの感覚も同じ構造で、内側ではぜんぶが標準。自分の耳で自分の訛りは聞こえないようにできてるんだから、自覚を持てという注文のほうが、そもそも無理筋なんだ。
自分の喋りを録音して再生して、ようやく、えっ私こんな声なの?となるでしょ。他人からの変わってるねは、あの録音にあたる。判決じゃなく、ただの観測データ。へこむ場面じゃなくて、ふーん、と聞く場面。
ついでに言うと、職場が変われば、住む土地が変われば、普通の中身も丸ごと入れ替わる。前の会社で浮いてた人が、転職先では真ん中になる例なんて、いくらでも見た。変わってるは、あなたと周囲のサンプルのズレ幅の話で、あなた単体の性能の話じゃない。
変わってるねは、後ろが読点か句点かで仕分ける
読点の変わってるねは、興味の入り口
変わってるね、に、意味はほとんど入ってない。意味は、その後ろに付いてる。
変わってるね、それどういうこと?変わってるね、いつからなの?と質問が続くやつ。これが読点の変わってるね。要は、もっと聞かせて、の合図。未知の店の前で足を止めて、扉に手をかけてる状態。
お見合いの現場では、これが出た組は、高確率でそのまま交際に進んでた。
句点の変わってるねは、相手の引き出しの事情
一方で、変わってるね。と言い切って、すっと話題が変わるやつ。句点の変わってるね。
これ、あなたの描写じゃないの。人は分類できないものに出会うと、座りが悪くて、とりあえず手近なラベルを貼る。変わってるは、未分類と書かれた箱のラベル。相手の引き出しに、あなたを仕舞う場所がまだ無かった、というだけの報告。
中身に触れてない言葉に、心当たりなんてあるわけがない。自覚が無いんじゃなくて、自覚する中身が最初から入ってない!
警戒すべき型は、ひとつだけ。人前で、笑いながら、この子ちょっと変わってるんですよぉと披露するやつ。あれは観察でも興味でもなく、座の上下を作るための小道具。言われた瞬間に胸がムッとしたなら、その感覚のほうを信じていい。
感想欄では、変わってるは、いい人でしたより脈があった
変わってる方でした、と書いた人がそのまま交際を希望する率は、いい人でした、と書いた人より明らかに高かった。
いい人でしたは、お断りの枕詞として消費されがちな言葉。変わってるは、続きが気になる、の言い換えであることが多かった。世間での印象と、市場での価値が、見事にねじれてるのよ。
担当に30歳の女性会員がいた。休日は何を、と聞かれるたび、ダムを見に行きます、と正直に答えて、毎回、変わってますねと返される。本人はそのたびにしゅんとして、ついに面談で、普通の趣味を作ったほうがいいですか、と言い出した。あの思いつめた顔は忘れられない(泣)。
私の返事は、作らなくていい、その代わり相手の句読点を見て、だった。変わってますねの後ろに質問が続いた人とだけ、次に進んでください、と。
数ヶ月後、彼女は、変わってますね、ダムのどこを見るんですか?と食い付いてきた男性と決めて退会した。彼の感想欄には、続きを聞きたくなったので、とだけ書いてあったな。
コンビニは全員が立ち寄るけど、誰もコンビニを愛してない。遠くからわざわざ通う客が一人いる店が、専門店。婚活でも人間関係でも、目指す業態は後者で足りる。
自覚を持たされて、喋れなくなった人もいる
ここで、世間のアドバイスにひとつ文句を言わせて。自分の変な部分を自覚して客観視しましょう、というあれ。劇薬だからね、あれは。
逆側の事故を担当したことがある。家族と元交際相手に、変わってる変わってると言われ続けてきた男性会員。自覚なら、それはもう立派に完成してた。完成した結果どうなったか。お見合いで一言喋るたび、今の、変じゃなかったですか、と相手に確認する癖が付いてた。
会話の全部が下書きみたいで、場にはシーンとした間ばかり増える。検閲を通った言葉って、安全な代わりに、誰にも刺さらないんだ。彼の初回フィードバックを読んだ夜は、こっちが切なくなった。
彼に必要だったのは自覚じゃなく、検閲の解除だった。半年かけて確認の口癖を一個ずつ外して、ようやくお見合いの空気が動き出した。
自覚ゼロのまま愛されてる人は、いくらでもいる。要るのは自覚じゃなく、出す場所の選別。
言われた日の取扱説明
変わってるねが飛んできたら、まず後ろを見る。質問が続く読点型なら、喜んでいい。あなたという専門店に、客が一人入ってきた。句点型なら、相手の引き出しの都合だから、持ち帰って反省する材料がそもそも無い。人前のいじり型だけ、距離の調整対象にする。
直す直さないの判断は、言われた回数じゃなく、あなた自身の困りごとの有無に置くこと。もし仕事の段取りや人付き合いで具体的なつまずきが積み重なって、本人としてしんどいなら、ラベルの解釈合戦より、専門家に相談してみる道もある。あれは敗北じゃなくて、ただの点検だから。
そうでないなら、その訛りは矯正の対象じゃない。
どこの言葉ですか、と聞いてくれる人に渡す、名刺みたいなものだから。
