下心ゼロの60代を、私はいちばん疑う
枯れてますから、なんて言う男性が、たまにいる。もう枯れた、欲はない、ただ穏やかに過ごせれば。にこにこしながら。
あれを聞くと、警戒のメーターが振り切れる。
60代で性欲も寂しさも世話されたい願望も全部消えた、なんて、よほどの事情がなければ起きない。欲はある。当たり前にある。にもかかわらずゼロを掲げる人は、本当の要求を地下に埋めてる確率が高い。
正直な下心は、机の上に置かれてるから値段の交渉ができる。隠された下心は、ある日いきなり請求書になって飛んでくる。
だから私は、欲を素直に出す60代より、無欲を演じる60代のほうをずっと怖いと思ってる。枯れたフリは、たいてい何かを枯らしてない人がやる演技だから。
下心を、危険度で格付けする
60代男性の下心を、現場で見た範囲でざっくり仕分けると、こうなる。安全なほうから並べていく。最後がいちばんタチが悪い。
性欲は、じつはいちばん御しやすい
みんなが真っ先に警戒するやつ。でも順位でいえば、危険度は意外と低い。
理由は単純で、分かりやすいから。手が早い、距離が近い、ホテルに誘いたがる。挙動に出るし、こっちもノーと言える。交渉のテーブルに最初から乗ってる欲は、扱える。
67歳の会員さんで、初回の面談からぬけぬけと言い切った人がいた。正直に言うけど、添い寝はしたいし、最後は手を握って見送ってほしい。そのかわり、俺の蓄えは生きてるうちに二人で使う。
ずいぶんあけすけな人だった(笑)。けど、彼とマッチした女性は、純愛を演じる男に当たった人より、よっぽど穏やかにやってる。要求が見えてる相手は、こっちも腹を決められる。
むしろ、その歳で性欲を完全否定してくる人のほうが、私には嘘くさい。
寂しさ埋めは、あなたじゃなくてもいい問題
妻に先立たれた、子どもは遠い、家に話し相手がいない。この穴埋め型は、悪意はない。むしろ純度は高い。問題は別のところ。
あなた個人に、興味が薄い。
見分け方は、彼の質問。あなたの過去や考えを掘ってくるか、それとも自分の寂しさばかり喋ってるか。出会って数日で距離をぐっと詰めてくる、誰にでも同じ台詞を言ってそうな気配、そういうのは空席を埋めたいだけのサイン。目の前の人間じゃなく、隣の空席のほうが問題なわけ。
ひとつ、見分け方を。デートの会話を録音できたとして、相手の名前を別の女性に差し替えても成立しそうなら、それは穴埋め。あなた宛ての言葉が、ほとんど入ってないってこと。
情は湧くから、つい応えたくなる。でも埋め合わせの相手は、いつでも別の誰かに交換可能。
トロフィー欲は、有効期限つき
若い、きれい、人に見せられる。これを満たす相手を、勲章みたいに欲しがる型。
特徴がはっきりしてる。人前ではやたら見せたがるのに、二人きりだと急に塩。連れて同窓会に出たい男で、家で話を聞きたい男じゃない。
64歳の会員さんで、二十も下の女性ばかり指名する人がいた。お見合いはご機嫌、でも交際に入ると週イチの食事だけで、相手の生活には一ミリも踏み込まない。半年で飽きて、また若い人へ申し込み直してた。
アクセサリー扱いだから、飽きが来る。新しい勲章が現れた途端、乗り換える。刺さってるうちは気持ちいいけど、有効期限の短さだけ覚えておくこと。
いちばん危ないのは、愛の顔をした介護要員の確保
60代男性の下心で、ダントツに危険なのがこれ。穏やかに寄り添いたい、家庭的なあなたといると安心する。言葉だけ聞けば理想の紳士。中身を開けると…自分が衰えたとき看てくれる元気な人材の、青田買いだったりする。
見抜く鍵は、プロフィールの希望条件にある。健康で、家庭的で、明るい方を。この三点セットを強調する60代男性を、私は心の中で求人票と呼んでた。健康イコール介護に耐える体力、家庭的イコール家事の担い手、明るいイコール俺の機嫌を取れる人。ぜんぶ、採用条件!
63歳の男性会員が分かりやすかった。前妻を病気で亡くしたばかりで、希望はとにかく健康で世話好きな方。お見合いでも、自分の食事や持病の話ばかり。相手の女性が体を壊したら一瞬で関心が引くのが、やりとりを追ってると透けて見えた。
もうひとつのサイン。彼の今の暮らしが、明らかに回ってない。冷蔵庫はからっぽ、シャツのボタンは取れたまま、入院のとき誰に付き添いを頼むかでそわそわしてる。その穴を、結婚という名前で埋めようとしてくる。恋愛じゃなく、欠員補充。
なぜ最悪か。性欲は数年で落ち着く。勲章の興味も飽きる。でも介護要員の契約は、あなたの60代70代の自由を、まるごと持っていく。しかも愛してるという言葉で包装されてるから、ほどくのが難しい。
叔母に花束を持ってきた、70歳の紳士
身内の話をひとつ。
数年前、当時68歳の叔母に、同じ趣味のサークルで知り合った男性が言い寄ってきた。70歳前後、物腰やわらか、毎回きれいな花束。家族のグループLINEは騒然となった。財産か、介護要員か、と。叔母は持ち家もあるし、年金もそこそこある。格好の標的に見えたわけ。
どうせロクな話じゃない、と私も決めつけてた。
職業柄、探りを入れる係になった。叔母経由で、彼の老後プランをそれとなく聞いてもらう。すると、ぽろっと出てきた答えが、こっちの予想を裏切った。
彼、自分の介護費用はもう用意してあって、施設の下見まで済ませてたの。叔母にこう言ったらしい。世話はプロに頼むから、君に背負わせる気はない。俺はただ、君とうまい飯を食って、たまに旅行に行きたいだけだ、と。
警戒してた私から、すうっと力が抜けた。
叔母も最初は浮かれてなくて、この歳で言い寄られるなんて裏があるに決まってる、と自分で身構えてた。だからこそ、彼の答えがまっすぐだったとき、家族の誰より先に本人が見抜けた。
判別の軸が、このとき一本に決まる。自分の弱りを自分で引き受ける気がある男か、あなたに外注しようとする男か。叔母は翌年その人と再婚して、今のところ機嫌よく暮らしてる。
下心を責めるな。非対称を疑え
最後に、持って帰ってほしい物差しを。
効く質問がひとつある。世間話のふりして、彼に聞いてみる。もし自分が寝たきりになったら、誰が看ると思ってる、と。答えが、施設やプロや子ども、自分でお金を貯めてる、なら健全。言葉を濁す、君が元気だから平気、愛があればなんとかなる、が出たら、それは求人票。
それと、下心を持つこと自体を悪者にしないこと。あなたの側にもある。寂しさを埋めたい、安心が欲しい、経済的に楽になりたい。大いに結構。お互いの欲をテーブルに開示して取引するなら、それは成熟した大人の関係になる。
釣り合いの話を具体的に。彼が安らぎと経済的安定を差し出して、あなたが家事と話し相手を差し出す。両方が納得なら、契約として対等。でも、彼は何ひとつ手放さずに、あなたの時間と労働だけを当てにしてるなら、それは結婚じゃなく、無給の終身雇用。
危ないのは、欲があることじゃなく、片方だけが搾取される非対称のほう。あなたが差し出すものと、彼が差し出すものが、釣り合ってるか。そこだけ見ればいい。
60代男性の下心で測るべきは、いやらしさの量じゃない。彼があなたを、一緒に老いていく相手と見てるか、自分が老いるときの要員と見てるか。
欲を隠す紳士より、欲を堂々と並べる男のほうが、たぶん安全に年を取れる。
