撫でられた側が舞い上がる前に、一個だけ
飲み会の帰り、ふいに手が伸びてきて、ぽんぽん。
あの数秒、頭皮の感覚だけ妙に鮮明に残るでしょ。
帰りの電車で、これって脈ありなのかと考え始めた人。
先に、いちばん言いにくいことから書きます。
あの動作、好意より先に上下関係を確定させてます。
撫でるという行為は、上から下にしか流れない
物理的に考えてみてください。
手を、相手の頭の上に置く。この動作、対等な人間関係では発生しません。
犬、子ども、後輩、患者。撫でられる側は、必ず保護される位置にいる。
恋愛感情がそこに乗ることは、もちろんあります。ただし乗っているだけで、土台は別物なんですよ。
好きだから撫でるんじゃなく、扱いやすい相手だと判定したから手が出る。
順番は、そっちです。
7年、婚活の現場で人の距離の詰め方を見てきて、この順番が逆だった場面を私は見ていません。
相談所で、撫でられた男性から交際終了が出た話
実例をひとつ。
34歳の男性会員と、31歳の女性会員が真剣交際に入る手前まで進んでいました。
順調に見えてたんです。
3回目のデートの後、男性側から交際終了の申し出。
理由を聞いて、私は正直ぽかんとしました。
頭を撫でられまして、と。
彼が言うには、その瞬間に、あ、この人は自分を年下として扱ってるんだなと分かってしまったそうです。実際は彼のほうが3つ上。
女性側に確認したら、可愛いと思ったから、と。悪意ゼロ。
可愛いという評価が、彼にとっては敗北通知だった。
ここ、男女でびっくりするほど非対称です。撫でる側は最上級の好意のつもりで、撫でられる側は等級を下げられたと受け取ることがある。
それでも、あの手には別のものが乗っている
とはいえ、上下の話だけで終わらせると嘘になります。
撫でるという行為には、もうひとつ条件がある。
触れられる相手は、そもそも極端に少ない
考えてみてほしいんですけど、頭って身体の中でも触りにくい場所です。
肩や腕なら、社交として成立する。頭は無理。
髪型が崩れる。距離も近い。失敗した時の気まずさが桁違い。
それを実行したということは、拒否されないと確信していたということです。
その確信は、どこから来るのか。
これまでの会話、表情、反応。全部を積み上げた上での判断でしょう。
だから、脈がないわけじゃない。
好意はある。ただしその好意が、恋愛の棚に入っているとは限らない。
安心できる人という棚と、付き合いたい人という棚は、女性の中で別々に管理されてます。
安全確認としての接触
面談で、男性の頭を撫でたことがあるという女性会員に理由を聞いたことがあります。
返ってきた答えが、意外でした。
この人は、私が触っても変にならない人か確かめたかった、と。
テストなんですよ。
撫でた時に、下心のある顔をするのか。ふつうに笑うのか。それとも固まるのか。
その反応で、次の段階に進めるかどうかを決めてる。
母性という言葉で片付けられがちですけど、実態はもっと計算的です。
可愛がりたい衝動と、安全確認が、同じ動作の中に同居してる。
判定に使えるのは、秒数と直後の一言
手が離れるまでの長さ
ぽんぽん、と2回叩いてすぐ離れる。これは完全にじゃれ合いの範囲。
弟や後輩にもやってます。
問題は、手のひらが頭に置かれたまま、一瞬止まった場合。
あの数秒の停滞が発生するのは、相手が同じ棚に入れていない時です。撫でるつもりで手を出したのに、触った瞬間に別の感情が混ざって、動作が遅れる。
そして、撫でた後の表情。
笑ったままなら、じゃれ合い。
すっと真顔に戻ったなら、本人も何かに気づいてます。
直後に何を言ったかで、棚が分かる
もっと分かりやすい指標があります。
撫でた直後の発言。
可愛いね、弟みたい、癒される。
この系統が出たら、恋愛の棚には入ってません。言葉で位置を再確認してる状態です。
逆に、何も言わずに手を引っ込めたら、望みはあります。
自分の行動を説明できないということは、本人にも整理がついていないということなので。
ごめん、と小さく言われたなら、もっといい。謝る理由が発生している時点で、じゃれ合いじゃないと自覚してる。
撫でたい側の女性が、たいてい見落としていること
その一回で、恋愛対象から外れることがある
悪気がないのは分かってます。可愛いと思ったんでしょう。
ただ、さっきの34歳の彼のように、あれ一発で降りる男がいる。
特に、年下の男性に対してはリスクが跳ね上がります。
年齢を意識している人ほど、子ども扱いへの警戒が強い。撫でられた瞬間、これまで積み上げてきた大人としての振る舞いが全部無効化された気分になる。
私は面談で、年上女性に頭を撫でられて交際を諦めた男性の話を、複数回聞きました。
彼らは怒っていません。ただ、静かに諦めてた。それが一番厄介なんですよ。理由を告げずに消えるので、撫でた側は永遠に原因を知らない。
触りたいなら、頭より肩
実務的な代案を置いておきます。
好意を伝えたくて触れたいなら、頭は避けてください。
肩か、腕の外側。
この位置は、上下が発生しません。横並びの接触になる。
同じ距離の詰め方でも、受け取られ方が違います。頭は保護、肩は共犯。
どうしても頭に手が出そうになったら、その衝動を疑ってほしい。
可愛いと思っているのか、対等に見られたくないと思っているのか。
後者だった場合、それは好意じゃなくて、たぶん安心を確保しにいってます。
私が夫の頭を撫でて、無言で払われた日
結婚2年目、深夜のキッチンで
自分の失敗を書きます。
結婚して2年目くらい。夫が仕事でしくじって、深夜に帰ってきた日がありました。
テーブルに突っ伏している背中を見て、なんというか、放っておけなくて。
後ろから、頭を撫でたんです。
よしよし、みたいな声も出た気がする。
手を、払われました。
無言で。ぱしっと。
あの時の空気、今でも思い出せます。冷蔵庫の音だけがぶーんと鳴ってた。
私は自分が慰めているつもりだったのに、彼にとっては、情けない側に置かれた瞬間だったわけです。
10年たって分かった、あの手の意味
数日後、彼がぽつりと言いました。
あれ、子ども扱いされた気がした、と。
私は反論しませんでした。というより、できなかった。
思い返すと、その頃の私は彼を弱っている人として見ていたんですよ。対等な相手じゃなく、保護対象として。
無自覚に、上に立ってた。
今は、同じ場面で背中を触ります。頭には手を出さない。
背中は、隣に立たないと届かないので。
