恋愛が気持ち悪いのは、わりと正確な観察
街で腕を組んで歩く二人を見て、ぞわっとする。
職場の恋バナで、目の焦点が合わなくなる。
自分だけおかしいのかと思ってる人、けっこういるでしょう。
おかしくないですよ。よく見えてるだけ。
恋愛って、外から観察すると本当に妙な現象なんです。他人の食べかけを平気で口に入れる。会って三か月の人間に部屋の合鍵を渡す。仕事より優先順位が上になる。
これを気持ち悪いと感じない人のほうが、実は何かのフィルターを外してる。
あなたはフィルターを外せていないだけで、視力そのものは正常。むしろ良すぎるくらい。
何も感じなかった人のほうが、決まらなかった
相談所にいた頃、真逆のタイプを担当したことがあります。
39歳の女性会員。誰と会っても平気。手をつなぐのも抵抗なし。生理的に無理という感覚がないんです、と本人が言ってた。
理想的に聞こえるでしょ。私もそう思ってた。
在籍2年半、成婚せず。
何が起きていたかというと、誰でもよかったんですよ。誰でもいいということは、この人じゃないと嫌だという場面が一度も来ない。
嫌悪の反対は好意じゃない。無感覚です。
一方で、初回面談で、恋愛が気持ち悪くて無理なんですと言い切った31歳の会員。私は正直、うわ、これは長期戦だなと身構えました。
1年後に成婚。
拒否反応が強い人ほど、突破した時の落差がでかい。この構図は何度も見ました。
自分を気持ち悪いと呼ぶ人が、実際に避けられていたことはない
ここから、もう少し痛いほうの話をします。
7年見てきて、嫌がられていたのは自覚ゼロの側
面談で、僕は気持ち悪いんだと思いますと言ってきた男性会員が何人もいました。
彼らのお見合い後の感想を、私は全部読んでます。女性側からの評価。
そこに気持ち悪いと書かれていたこと、一度もない。
本当に一度も。
書かれていたのは、控えめでした、緊張されてました、そんな内容ばかり。
じゃあ実際に女性側が拒否感を示した相手は誰だったか。
自分を疑ったことのない人たちでした。距離の詰め方が速い、質問が一方通行、相手が黙っても気づかない。そして面談では、なんで決まらないんですかね、と首をかしげてる。
自己嫌悪と実際の印象は、逆相関だったんです。
自分の気配を気にできる人が、他人の空間を踏み荒らすわけがない。当たり前といえば当たり前。
自己診断は、いつも一番うるさい声が出している
気持ち悪いという判定を、誰が下したのか。
思い出してみてください。
たいてい、10年以上前の一言です。中学の教室で誰かが言った、あれ。あるいは笑われた記憶。
その一回の判定が、更新されないまま残ってる。
人間の脳って、いい評価は上書きするくせに、悪い評価だけ保存版にするんですよ。ほんと、ろくでもない設計。
今のあなたに対して、今の誰かがその言葉を使った証拠はありますか。
たぶん、ない。
判定を出しているのは他人じゃなく、当時の音声を再生し続けている自分です。
好きになる工程を全部書き出したら、たぶん吐く
恋愛のほうが気持ち悪い、と言いたい人にも味方します。
分解すると、なかなかの異常行動
好きになるという現象を、工程表にしてみるとこうなる。
特定の人物の通知だけ心拍が上がる。予定を空けて待機する。会話の内容を後から何度も再生する。他人と話しているのを見て胸が痛くなる。
これ、恋愛という単語を外したら、ちょっとした異常事態ですよね。
みんなその状態を、素敵な感情として運用してるだけ。
だから、気持ち悪いという感想は間違ってません。中身を見たら、実際そうなので。
問題は、その感想を持ったまま自分を欠陥品扱いしていること。観察が正しかっただけで、罰を受ける理由がない。
例外がひとりだけ現れる、それだけの話
じゃあ、恋愛できている人は何が違うのか。
嫌悪感が消えたわけじゃないんです。例外が一人できただけ。
他人の咀嚼音は無理。でもこの人のは平気。
恋バナは寒い。でもこの人と話す未来の話は寒くない。
全人類に対する拒否反応が、一名分だけ解除される。それを恋と呼んでるにすぎない。
全員に対して平気になろうとするから、途方に暮れるんですよ。ハードルの置き場所を間違えてる。
99人に嫌悪が出るのは正常運転で、100人目でシステムがバグる。そのバグを待つ話であって、体質改善の話じゃない。
恋愛を経由しない人生を、負けにしない
その例外が、生涯現れない人もいる。
恋愛と結婚と生活は、別々の建物
恋愛の延長に結婚があると教わってきたでしょ。あれ、けっこう嘘です。
相談所で成婚した人たちを見ていて、はっきりしたことがあって、恋愛感情の量と結婚生活の質に相関がなかった。
むしろ、燃え上がった二人ほど交際期間中にもめてた。
結婚は共同運営です。恋愛は事故みたいなもの。
事故を経験していない人が運営に向いていない理由、どこにもないんですよ。
一度も好きにならないまま決めた42歳
42歳の男性会員。面談で、恋愛感情がよくわからないんですと言われて、私も最初は困りました。
彼、女性と会っても胸が高鳴ることが一度もなかった。それを恥じてもいた。
成婚したのは、8回目に会った女性でした。
決め手を聞いたら、この人と暮らす段取りだけは想像できたので、と。
好きかどうかは最後までわからないままだったそうです。
今も続いてます。年賀状が毎年届く。
恋愛ができないことは、パートナーが持てないことと同義じゃなかった。ここ、履き違えている人が本当に多い。
そして、誰とも組まない選択も普通に成立します。降りていい。ただ、降りる理由として自分への侮蔑を使うのだけはやめてほしい。それは選択じゃなく、判決を受け入れているだけなので。
手をつないで鳥肌が立った、25歳の夜
私は壊れていると思い込んだ数年間
恥をさらします。
25歳のとき、当時の彼氏と歩いていて手を握られました。
腕全体に、ぶわっと鳥肌。
嫌いじゃなかったんです。むしろ好きだったはず。それなのに身体が拒否した。
その場では笑ってごまかして、家に帰ってから洗面所で自分の腕をさすってた。私、どこか壊れてるんじゃないかと。
はぁ…と、鏡の前でため息が出た夜のこと、いまだに覚えてます。
その後しばらく、人と触れることを避けてました。恋愛のできない人間として生きるつもりだった、大げさじゃなく。
結婚10年、恋愛は一度もしていない
今の夫と会ったのは、その数年後。
最初、何も感じませんでした。ときめきゼロ。むしろ、この人つまらないなと思ってた。
変化が来たのは、風邪をひいた時です。
彼が買ってきたゼリーの味が、たまたま私の好きなやつだった。それだけ。それだけで、ぷつんと何かが切れた。
鳥肌は、立ちませんでした。
今も自問することがあります。あれは恋だったのか。
たぶん違う。いまだに、私は恋愛らしい恋愛を一度もしていないと思ってる。
それでも子どもが2人いて、10年以上、同じ家で朝ごはんを食べてる。
恋愛できないまま、けっこう遠くまで来られました。
それでも誰かと生きたいなら
好きになるのを待つのを、やめる
最後に、実務的なところだけ。
好きになれる人を探す、という探し方をしている限り、たぶん永遠に見つかりません。
嫌悪の出ない人を探すほうが、圧倒的に早い。
一緒にいて、疲れない。沈黙が痛くない。連絡が来ても、うっと固まらない。
このゼロ地点をクリアする相手が、まず稀なので。そこを通過した時点でかなりの奇跡です。
好意は、ゼロ地点にしばらく居座ったあとで、じわじわ湧くこともあるからね。
