好きになるのが怖いと言う人ほど、たぶん深く落ちる
面談室で、この言葉を何度聞いたことか。
人を好きになるのが、怖いんです。
だいたい、下を向いて、声が小さくなる。
当時の私は、うんうん、それは過去に何かありましたか、なんて優等生の返しをしていました。
今なら違うことを言う。
それ、まだ十分に動いてる証拠ですよ、と。
怖さの反対は愛じゃなくて、面倒くさい
恐怖の反対側にあるのは、安心でも勇気でもないと思ってます。
無関心。もっと言うと、めんどくさい。
怖いという感覚が湧くのは、その先に失うものがあると分かっているから。失う想定ができるのは、手に入れた時の重みを知っているから。
つまり、あなたの中で恋愛はまだ高価な扱いなんですよ。値札がついたままなんです。
本当に終わっている人は、怖いとすら言いません。
言うのは、また面倒なことになるな、のほう。
一度も怖いと言わなかった45歳の3年間
逆の例を出します。
45歳の女性会員で、面談中に一度も弱音を吐かなかった人がいました。テンポがいい。お見合いを組めば必ず行く、感想もその日のうちに返ってくる。
私は最初、この人はすぐ決まるなと踏んでいた。
3年、誰とも続きませんでした。
交際には入るんです。3回目くらいで、なんか違いますね、と本人があっさり切る。
恐怖がないぶん、痛みもない。痛みがないから、必死にもならない。
一方、初回面談で泣いてしまった33歳の会員は、1年半後に成婚しました。
怖がっていた人が決まって、平気そうな人が残る。この構図、7年間で何度も見ました。
怖さは病気じゃない。エンジンがかかったまま、サイドブレーキを引いてる状態です。
怖いのは相手じゃない、恋をした時の自分
好きになると別人が出てくる、その別人が嫌い
過去に裏切られたから怖い。傷つくのが怖い。
定番の説明ですけど、面談で深掘りしていくと、9割はここに行き着きませんでした。
出てくるのは、あの時の自分が嫌だった、という一言。
返信が来ないだけで一日が潰れる自分。
予定を全部あけて待っている自分。
声のトーンが変わる自分。
好きになると、管理していたはずの生活がぐしゃぐしゃになる。仕事も睡眠も、優先順位が勝手に組み替えられる。
その乗っ取られる感じを、身体が覚えてしまってるんです。
怖いのは失恋じゃなくて、恋愛モードの自分。相手は関係ない。極端に言えば、まだ会ってすらいない誰かに怯えてるわけじゃなく、鏡に怯えてる。
27歳、通知の回数を数えていた頃
私も、そっち側でした。
27歳の頃、好きになった相手のSNSを一日に何回開いたか、なんとなく把握してた時期があります。10回を超えた日に、ひやりとした。
これ、やばいな、と。
仕事中に画面を伏せて、また開いて。会議の内容が半分も入ってこない。
そこで私が取った行動が、笑えないくらいダサいんですけど、こっちから距離を置いたんです。忙しいふりをして、返信を遅らせて、フェードアウト。
相手が嫌になったわけじゃない。
自分の稼働が落ちるのが、耐えられなかっただけ。
好きになるのが怖いという言葉の中身を、私はこの体験でしか説明できません。
好きになる前に降りるための、減点表
怖い人には、共通の技術があります。無自覚に習得してる。
完璧な理由を見つけた瞬間、ほっとしている
食事の音が気になった。
政治の話をされた。
靴が汚かった。
好きになりかけると、なぜか粗がくっきり見えてくる。視力が急に上がる。
あれ、防衛です。減点材料を集めて、自分から降りる正当な理由をつくってる。
分かりやすいサインがあって、その粗を見つけた瞬間、ほっとするんですよ。
残念、じゃない。安堵。
そこに気づいてしまうと、けっこうきついです。私は面談で他人のそれを何十回も見て、ようやく自分のを認めました。人のことなら分かるのに、自分だけ見えない。
面談で聞いた断り理由が、毎回もっともだった話
34歳の女性会員がいました。断り方が理路整然としてる。
価値観が合わない。将来設計が曖昧。会話のテンポが違う。
どれも正論。反論しようがない。
ある日、私は聞き方を変えてみました。断った人の中で、いちばん心が動いた人は誰でしたか、と。
彼女、しばらく黙ってから、2人目の人ですね、と。
その2人目が、いちばん理由が長かった相手でした。
理由の長さと、好意の量が比例していた。
どうでもいい相手には、なんとなく、で終わるんです。理由を組み立てる必要すらない。
ぐうの音も出ない断り文句を用意した時、あなたはたぶん、その人が好きになりかけてる。
治すのは怖さじゃなく、賭け金
克服法を探している人に、いちばん伝えたいところ。
怖さを消そうとする方向、私は失敗例しか見ていません。
全部を差し出すから、こわい
恐怖の正体は、掛け金の大きさです。
好きになったら、この人と結婚できるか判定して、友人関係の再編を想像して、次の3年の計画に組み込む。無意識にやってる。
初対面の相手に、人生を全ベットしてる状態。そりゃ手が震える。
だから減らすのは感情じゃなく、賭ける額のほう。
今月2回会う、それだけ決める。先を見ない。
将来性の査定を止めるだけで、体感の恐怖は半分以下になります。会うのが怖いんじゃなくて、査定が怖かっただけなので。
好きかどうかの判定を、いったん停止する
もうひとつ。
これは好きなのか、まだ分からない、と悩む時間。あれを丸ごと捨てる。
判定しようとすると、判定した瞬間に賭け金が跳ね上がるから、脳が怖がって判定を先延ばしにする。ぐるぐる回って、疲れて、結局会わなくなる。
判定を放棄すれば、賭け金は据え置きのまま。
好きかどうかは、半年後に振り返った時に勝手に分かります。渦中では絶対に分からない。
私も、夫を好きだと自覚したのは付き合ってしばらく経ってからでした。順番が逆でも、別に困らなかった。
5回連続で、自分から別れを切り出した
先に降りる人は負けない、その代わり何も残らない
20代の私の戦績。5回連続、こちらから終わらせてます。
無敗。
無敗なのに、手元に何もない。
先に降りれば、傷つく側にならずに済みます。捨てられた記憶がひとつもない代わりに、続いた記憶もひとつもない。
そのことに気づいた夜のざわっとした感じ、まだ残ってます。
負けないことと、勝つことは、まったく別の競技だった。
夫が、まったく驚かなかった日
今の夫と付き合って3か月くらいの頃、いつもの発作が来ました。
このままだと自分がおかしくなる、という、あの感じ。
6回目の別れ話を切り出そうとして、私、そういうの向いてないと思う、と言ったんです。声が震えてた。
彼、スマホから顔も上げずに、そうなんだ、で、明日の朝ごはんパンでいい?と。
ぷつん、と力が抜けました。
別れ話を、朝ごはんの前に置かれた。
あの時の、拍子抜けと安心が混ざったへんな感情を、今もうまく言葉にできません。
分かったのは、私の怖さは相手のリアクションで決まっていたということ。
深刻に受け止められると、賭け金が上がる。上がると逃げる。
彼は最後まで賭け金を上げてこなかった。それだけで、10年以上たってます。
怖いと言われた側へ
説得も、ただ待つのも、両方はずれ
女性からそう告げられて、この記事にたどり着いた男性が一定数いるはず。
やりがちなのが、大丈夫だよ、俺は違うから、という説得。あれ、逆効果です。真剣さの提示は、そのまま賭け金の値上げなので。
かといって、何も言わずに黙って待つのも半分違う。放置と区別がつかない。
効くのは、話を軽く受け取って、次の予定を小さく置くこと。
そっか、じゃあ来週そのカフェ行こうか、くらいの雑さ。
重く受け止めないことが、いちばん重い誠実だったりします。私の夫が意図してやってたとは思えないけど、結果的にそうだった。
最後に。怖さが消えてから恋をしよう、という計画。
やめたほうがいいです。
消える日は来ないので。もし消えたなら、それは克服じゃなくて、値札が外れただけ。
怖いまま、来月に2回だけ会う。
それくらいの雑な進み方で、人はけっこう、うっかり幸せになります。
