気持ち悪いと言われているのは、メイクそのものじゃない
コンビニのレジで、店員の視線が自分の頬に0.5秒止まった気がした。今の時代なら普通ですよ、気にしすぎです。
女性がアンケートに書いていたのは、別のこと
お見合いのあと、女性側から回収する感想アンケートというものがあった。あれは残酷でね…。
化粧してて気持ち悪い。そう書いてきた人は七年でゼロ!
代わりに並んでいたのは、鼻毛、爪の中の黒い線、襟の黄ばみ、香水が強い、頭皮のにおい。そしてもう一つ、肌がベタベタしていそうで手を繋ぐのが怖かった、という一文。
たぶんこれが全部の答え。
女性は化粧という行為を見ていない。触ったときの想像をしてる。
婚活の席が化粧で崩れた日
夕方のラウンジ、窓際の席が悪かった
三十四歳、大手メーカーの技術職。名前は出さない。真面目で、私の助言をよく聞く人だった。ある日の面談で肌がきれいになっていて、BBクリームを買ったと嬉しそうに言うので、私も一緒に喜んだ。
お見合いは十七時。ホテルのラウンジ、窓際。
西日は真横から入る。斜めの光は顔の凹凸を全部拾う。彼の顎のラインで、色がぷつっと切れていた。首はもとの色のまま。頬から下だけ、明るいベージュ。
女性は途中から、飲み物を運ぶスタッフを見るふりで視線を逃していたらしい。感想は一行だけ。顔の下半分が、お面みたいでした。
はぁ…。あれは私のミスでもある。塗り方の話を一言もしなかった。
同じ月に成婚した三十七歳は、塗っていない
同じ月にもう一人いた。三十七歳、髪が薄くなりはじめて、それを隠すために前髪を伸ばしていた人。
私が買わせたのは二つ。眉用の小さいハサミと、白くならない日焼け止め。以上。
彼はファンデーションを一度も使っていない。
三ヶ月後、成婚。
のちに女性が言った言葉が忘れられない。清潔感というより、自分の顔を放置していない感じが良かった、と。
放置していない感じ。
カバー力とは、まったく別の軸の話でしょ。
気持ち悪い側へ転がる線は三つ
判定を分けるのは化粧の有無じゃない。この三本の線を踏むかどうか。
首から上だけ色が違う
一番多い事故がこれ。
明るく見せたくて、自分の肌より一段上の色を選ぶ。顔だけ光る。首が土色に見える。
色は明るいほうへ外すな。暗いほうへ寄せる。首に合わせて、迷ったら顔が沈むくらいでちょうどいい。血色は頬にほんの少し足せば戻る。
自然光の下で顎を上げて鏡を見る。境目が見えたら、その日は塗らずに出ればいい。
影が消えて、顔が平たくなる
男の顔は影で成り立ってる。
目の下のくぼみ、鼻の脇、口角の下。ここを全部埋めると能面になる。ぺたっとした平面。人が本能的にゾワッとするのは、その平面のほう。
青髭を消したい気持ちはわかるよ。消しすぎると、口のまわりだけ質感の違う異物になる。八割消して二割残す。中途半端が正解って、なんだそれって感じだけど(笑)
意外と、残った青みなんて誰も見ていない。清潔なら通る。
テカリも全部潰すと生き物じゃなくなる。鼻とTゾーンだけ、ティッシュで軽く押さえる程度。
隠したことを、さらに隠そうとする
本命はここ。
気持ち悪さは肌から出るんじゃなくて、態度から漏れる。
汗をかいた瞬間にトイレへ立つ回数が増える。顔に手が伸びてくると、のけぞる。相手が近づいたら、明るい席から暗い席へ移りたがる。
女性が受け取っているのは、この不自然な回避運動のほう。何か隠してる人だ、と伝わってしまう。
隠しごとを抱えた男の空気は、浮気してる人のそれと似てるのよ。だから怖がられる。化粧が怖いわけじゃない。
男から気持ち悪いと言われる話は、拾わなくていい
その声の出どころ
実際にその言葉を浴びた男性会員が二人いた。どちらも、言ってきたのは同性。職場の先輩と、大学時代の友人。
言い切るよ。あれは審査じゃない、防衛だよ!
自分は顔を放置してきた側だと認めたくない人間が、努力している側を引きずり下ろすときに選ぶ語彙が、気持ち悪い。
ダイエットを始めた人に、痩せて誰に見せるのって聞くやつと同じ構造。
女性からその言葉が出た例は、七年でひとつも聞いていない。ゼロ。
言われるとしたら化粧じゃなく、距離の詰め方のほうだと思う
職場で言われたときの返し方
おまえ化粧してる?と聞かれた場面での正解は、否定しないこと。
してますよ、日焼け止めが色つきなんです。それで終わり。
言い訳を三つ並べた瞬間に、相手は面白がる。恥ずかしがってる人をいじるのは楽しいから。
つまらない返しをすれば二度は聞かれない。私が見てきた限り、ここで折れて全部やめた人ほど、半年後に別の何かで自信をなくしていた。
黙ってやるから気持ち悪くなる
先に言った男の席で起きたこと
四十一歳、再婚希望。彼はお見合いの雑談で、自分から言った。実はクマがひどいので少し隠してきました、と。
女性が笑って、私もシミ隠してますって返した。
その席、二時間半。のちに成婚。
カバー力ゼロでも開示があれば成立する。完璧に塗っても、隠していれば減点。この非対称、面白くない?
だから私は婚活中の男性に言っていた。塗る技術より、聞かれたときに三秒で言える一文を用意しておいて、と。
夫のクマと、笑ってしまった私
恥ずかしい話をひとつ。
数年前、洗面所で夫が私のコンシーラーを使っていた。目の下に、ぐしゃっと。量が多すぎて白い。
思わず笑った。あははって声が出た。
夫の顔から表情が消えたあの瞬間を、一生忘れないと思う。(泣)
四十過ぎの男が、家族に見られないよう鏡の前で息を殺していた。その恥の量を、私はアドバイザー時代に一度も測っていなかった。面談室で軽く、メイクしてみたら、と言った男性会員が次の回から来なくなったことがある。あのとき私は、自分の失敗を彼の意欲不足で片付けた。最悪だった。
気持ち悪いかどうかを気にできる男性は、他人の目を過剰に想像できる人。その想像力を、目の前の相手の機嫌を読むほうへ回せば普通に武器になる。塗るか塗らないかなんて、正直どっちでもいい。
夫は今もたまに私のコンシーラーを勝手に使う。黙ってないで言ってくれれば、色くらい選ぶのに。
